辰濃哲郎(たつの・てつろう) ノンフィクション作家
ノンフィクション作家。1957年生まれ。慶応大卒業後、朝日新聞社会部記者として事件や医療問題を手掛けた。2004年に退社。日本医師会の内幕を描いた『歪んだ権威』や、東日本大震災の被災地で計2か月取材した『「脇役」たちがつないだ震災医療』を出版。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
きっと安倍晋三首相には、沖縄の怒りの意味が理解できなかったのだと思う。
6月23日、沖縄戦で亡くなった20万人を超える住民・軍人らの霊を慰め、世界平和を願う沖縄全戦没者追悼式に、例年通り安倍首相が出席した。
出席者の献花で厳かな空気が流れるなか、平和宣言を読み上げた玉城デニー県知事は、戦没者への慰霊の言葉とともに、安倍政権の沖縄政策に正面から切り込んだ。
2月に実施された県民投票で投票者の7割以上が辺野古基地建設に「反対」の意思を示したことについて、「県民投票の結果を無視して工事を強行する政府の対応は、民意を尊重せず、なおかつ地方自治をもないがしろにするもの」と苦言を呈した。同時にウチナーグチ(沖縄方言)と英語で世界に向けて沖縄の肝心(ちむぐぐる=相手を思いやる心の奥底の感情)の尊さを説いた。
続いて小学6年生の女児がつづった「平和の詩」を女児本人が朗読した。
「『命どぅ宝』/生きているから笑い合える/生きているから未来がある」
平和の大切さを読み上げる女児の幼い声に、会場ではハンカチで涙を拭う女性の姿も。そして司会者が告げる。
「来賓挨拶、内閣総理大臣、安倍晋三殿」
和らいだ雰囲気が一変して、緊張が走る。出席者の多くが身を乗り出し、視線は安倍首相の立った会場右前方に集中する。突然、「帰れ!」「恥を知れ!」。怒号が飛んだ。まだ3人ほどに留まっている。
安倍首相は、いつもの早口であいさつ文を読み始める。「沖縄が負った癒えることのない深い傷を思うとき、胸ふさがる気持ちを禁じ得ません」。昨年とほぼ同じ追悼の辞だが、「この地の誇る豊かな海と緑」という部分が「この地の誇る美しい自然」に差し替えられているのは、辺野古の海の埋め立てを強行していることを意識したためか。それでも会場は、まだ静けさを保っていたが、基地問題に触れるとざわつき始める。
「沖縄の方々には、永きにわたり、米軍基地の集中による大きな負担を担っていただいております。この現状は、何としても変えていかなければなりません」
すかさず、「嘘つき!」と男性の激しい声が響いた。続いて女性の声も。さらに県民の琴線に触れるスピーチが続く。