辰濃哲郎(たつの・てつろう) ノンフィクション作家
ノンフィクション作家。1957年生まれ。慶応大卒業後、朝日新聞社会部記者として事件や医療問題を手掛けた。2004年に退社。日本医師会の内幕を描いた『歪んだ権威』や、東日本大震災の被災地で計2か月取材した『「脇役」たちがつないだ震災医療』を出版。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
2015年に返還が実現した西普天間住宅地区跡地利用について、「(返還が)実現した初の大規模跡地であり、基地の跡地が生まれ変わる成功例として、県民の皆さまに実感していただけるよう、跡地利用の取り組みを加速します。引き続き、できることはすべて行う、目に見える形で実現するとの方針のもと、沖縄の基地負担軽減に全力を尽くしてまいります」。返還を主導した現政権の功績をアピールしているようにも聞こえるが、「大規模」と言っても、西普天間住宅地区跡地は沖縄における米軍専用施設の2%にも満たない面積だ。依然として全国の7割以上の米軍基地が沖縄に存在する状態は変わっていない。
「出生率は日本一、沖縄に魅せられて訪れた観光客は昨年度約1千万人と、6年連続で過去最高を更新しました。沖縄が日本をけん引し、21世紀の万国津梁(ばんこくしんりょう)として世界の懸け橋となる。今、それが現実のものとなりつつあります」
記者席の近くに立って聞いていた男性から「あんたがやったわけじゃないだろう」と、ボヤキともつかぬ声が飛ぶ。会場からは失笑が漏れる。
「この流れをさらに加速させるため、私が先頭に立って、沖縄の振興をしっかりと前に進めてまいります」
「私が先頭に立って」というフレーズに、「止めてくれ!」という男性の怒鳴り声と、「言葉はいらない!」という女性の声が混じる。「安倍はやめろ!」も聞こえる。
挨拶を終えたが拍手はまばらだ。見渡すと、それでも3割ほどの参列者が拍手を送っている。自席に戻る安倍首相に向かって「帰れ!」「嘘つき!」など険悪な空気が続く。先ほど「あんたがやったわけじゃないだろう」とぼやいた男性が、またポツリと独りごとのようにつぶやく。
「あんたの発言には心がないよ」
追悼式の厳粛な雰囲気を壊すという意味では、大きな声でのヤジは褒められたものではない。だが、昨年よりも、一昨年の追悼式よりも、怒りの声を上げた人は圧倒的に多い。2月に行われた県民投票で辺野古基地建設に明確に反対の意思を示したにもかかわらず、一顧だにせず埋め立てを強行する安倍政権への不信感が渦巻いているのだろうか。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?