吉本芸人の騒動から考える謝罪のあり方
前園真聖氏や市川海老蔵氏は、なぜ失敗しなかったのか? 失敗と成功の例に学ぼう
前田哲兵 弁護士
「謝罪の鉄則」①できるだけ早く行う
ゴーストライター問題が話題となった佐村河内守氏の謝罪会見は、成功したとは言い難い事例だろう。それは内容の問題というよりは、謝罪時機を失したことに問題があった。
この件は、2014年2月6日に新垣隆氏の告発会見によって多くの人の知るところになった。その後、佐村河内守氏は、2月12日に自筆の謝罪文を発表。謝罪会見を開いたのは、3月7日、新垣隆氏の会見から実に1カ月も経過した後だった。
テレビの情報番組は、連日にわたってこの問題を取り上げ続け、佐村河内守氏が謝罪会見を開くころには、すでに彼に対する世間からの評価が完了してしまっていた感がある。その結果、謝罪会見では、記者が「まだ手話通訳終わってませんよ」などとちゃかすような発言をするなど、誰も彼の言い分を聞こうとはしていなかったように思う。

佐村河内守氏の記者会見で、質問をするため挙手する報道関係者=2014年3月7日午後、東京都港区、山本裕之撮影
ここでの教訓は、謝罪会見は可及的速やかに開く必要があるということである。遅くなればなるほど、報道は過熱し、世間の不信感も大きくなっていく。一度固まってしまった世間の評価を事後に覆すことは極めて難しい。
また、会見を開かずに謝罪文だけで済ませようというのも悪手である。人は文章だけから誠意を読み取ることができない。むしろ「簡単に済ませようとしているのか」と思われ、逆に怒りを買ってしまう恐れがある。誠意とは、表情や声色など言語化できない情報から伝わる部分が大きいのだ。
読者も職場や家庭での謝罪をメールだけで終わらせようとしたことはないだろうか。どうしても時間が作れないときは、せめて電話をして、自分の声で謝罪の意思を伝えるべきだ。
「謝罪の鉄則」②ありのままに語る(うそをつかない)
近年、最も話題になった謝罪会見といえば、タレントのベッキーさんだろう。彼女は、音楽バンドのメンバーとの交際関係が疑われたことに対して、会見において「2人でお食事に行かせていただいたこともあります。そして、お正月に長崎のご実家にお邪魔したことも事実です。ただ、お付き合いということはなく、友人関係であることは間違いありません」と釈明した。
しかし、その後、単なる友人関係ではない交際関係にあったことをうかがわせるSNS画像が流出し、窮地に追い込まれた。SNS画像の流出によって、彼女が世間に対してうそをついていたことが明るみとなり、非難はその点に集中したのである。

⑩ 報道陣の取材に答えるベッキーさん=2016年6月10日午後、東京都内
ここでの教訓は、「誰もが首をかしげるような見え透いたうそはつかない」ということである。謝罪という場においては「自己が非を認めなければ隠し通せるだろう」という甘い考えは捨てるべきだ。特に、誰もがスマートフォンでいつでも録音・録画でき、SNSによる相互監視が進む現代社会においては、自らの行いはどこかにその記録が残っており、いずれ世間に明るみに出ると考えておくべきだろう。「うそはバレる」と思っておいた方がよい。
また、見え透いたうそをついてしまうと、真剣に反省をしていないと思われて逆効果になってしまう。一度そういう事態になってしまうと、もう挽回(ばんかい)は不可能だ。
逆に、自己に不利な点を素直に認めて謝罪することは、実は、真剣に反省していることを相手に伝える最も有効な方法だ。相田みつを氏の詩に「べんかいのうまい人間 あやまりッぷりのいい人間」というものがあるが、後者になることをお勧めする。