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板野氏の異例の復帰で揺れるNHK

石原経営委員長が主導、経営委では2人が棄権し他に2人が返り咲きに異論

川本裕司 朝日新聞記者

板野裕爾専務理事の復帰で揺れるNHK=東京都渋谷区」

 NHK専務理事の異例の返り咲き人事発表から3カ月、いまだその余波は消えていない。4月9日の経営委員会で、NHKエンタープライズ社長からNHK専務理事に3年ぶりに復帰した板野裕爾氏(65)のことだ。専務理事・放送総局長時代の板野氏については、「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターの降板をはじめ政権の意向を忖度してきた、と言われてきた。今回の人事は石原進・経営委員長がリードし、上田良一NHK会長は渋々受け入れた、と見られている。

 4月25日付で発令された役員人事は、板野氏と広報局長から理事に昇格した正籬聡氏(58)が新任。児野昭彦専務理事・技師長と中田裕之理事が再任され、荒木裕志理事が専務理事に昇格となるとともに、坂本忠宣専務理事と菅康弘理事が退任した。

 板野氏は14年4月、籾井勝人前会長の側近として専務理事・放送総局長に抜擢された。しかし、NHK関連会社などを入れる新ビルを籾井前会長が計画、その建設用地(東京都渋谷区)を約350億円で購入する案について、15年12月の理事会で反対した末、16年4月に退任した。籾井前会長の路線とは距離を取ってきた上田会長だけに、板野氏の復帰はサプライズだった。

板野氏復帰を問題視して人事案を棄権

 板野氏の専務理事就任に同意した4月9日の経営委員会では、佐藤友美子・追手門学院大教授と小林いずみ・ANAホールディングス社外取締役の経営委員2人が、人事案に対し棄権した。問題視したのは板野氏の復帰だった。

 4月26日に公表された9日の経営委員会議事録では、佐藤委員は「今回も(19年度予算が)全会一致で通って非常によかったという報告がありましたが、板野さんが理事になられた場合、いろいろ反発があるのではないか」「私自身も何年かやってくる中で、ちょっとこれはどうかと思うようなことがいくつかありました。……私としては板野さんに対して抵抗感があって、そこはぬぐえません」と反対した。小林委員は「リーダーシップのある若い方たちをどんどん登用していくということが求められる中で、今回、板野さんのように比較的年齢の高い方がまた戻られるということについて、どのようにお考えになられたのか」と疑問を投げかけた。

 この2人以外にも板野氏の復帰に消極的な発言があった。議事録には、井伊雅子・一橋大大学院教授が「板野さんについて、今回のような(『異例返り咲き』と報じた毎日新聞の)記事が出て、何か昔の記憶などからとても嫌な思いをしたことは確かです。ただ、一理あるのだと思います。ぜひ慎み深い行動をお願いしたいです。日々の言動に気をつけていただかないと、またいろんな問題が起きてくると思います」と話した。渡邊博美・福島ヤクルト販売会長も「この人事でやる場合には、まず理事の方の中で、そのあとNHKとグループの中で、若い方も含めて『やる気』をきちんと持たせるような説明、役割の説明についてお願いしたい」と述べた。

 実際には、もっと踏み込んだ内容の批判が出ていた。だが、議事録には掲載されず、削除された。

 関係者によると、井伊委員は「板野氏はかつて『官邸に近い』と自ら発言していた、と聞いている」と指摘。渡邊委員は「NHK職員から『この人だけはやめてほしい』と、板野氏の復帰に反対するよう訴えられた」と言った、という。ただ結果的には、井伊委員と渡邊委員はともに、人事案には賛成した。

 上田会長は経営委で、板野氏の起用理由について、「放送の現場から関連団体に至るまで経験が豊富で、関連団体の社長業で磨いてきた経営センスもあわせ持っている」と説明した。しかし、関係者によると、板野氏の復帰について、渋る気持ちを周囲に漏らしている。板野氏の担当は放送内容と直接関わりのない関連団体だ。あるベテラン職員は

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