一臨床医から見たがん検診の一般的な問題点
2019年07月07日
菊池誠氏の「福島の甲状腺検査は即刻中⽌すべきだ」の記事に関して、Twitter上で多くの反論が寄せられているのを目の当たりにしたが、反論に対する意見の一つとして、筆者が2年前に日刊ゲンダイに書いた記事(注1)が周辺で引用されていたこともあり、Twitter上の議論を追いかけてみた。しかし、議論はかみ合わず、お互いが非難し合って終わるという状況だ。
反論の多くが、がん検診についての一般の人たちの意見としては十分理解できるものである反面、科学的、論理的な部分を欠いているというのが正直な感想だ。そこで自分がうまく情報を提供できるという自信があるわけではないが、日々根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine: EBM)を実践し、がん検診を担当している医師の一人として、多少なりとも議論を整理できる情報が提供できるのではと思い、原稿の依頼を受けたこともあり、筆を執っている。
福島の甲状腺がん検診の是非を問う以前にまず必要なことは、がん検診についての一般論の理解である。福島の個別性も一般論を理解したうえで考えたほうが良いだろう。
反論の基盤には「早期発見・早期治療は善である」という前提があり、それに反対するとは何事か、というものが大部分である。しかし、一般的に言えば「早期発見・早期治療は善であるとは限らない」ばかりか、「早期発見・早期治療には害がある」というのが、がん検診の一般論である。まずその誤解を解くことに努めたい。
ただその一般論は、福島の個別の状況には当てはまらないかもしれないという反論に対しては、あらかじめ以下のように反論しておきたい。
「早期発見・早期治療の害」は、被曝量が多く、甲状腺がんのリスクが上昇し、その甲状腺がんの予後が従来の甲状腺がんより悪いとしても、なくなるものではないので、この一般論は福島を個別に考えるときにも有効なはずである。だから、推定被曝量が信じられないという人も、甲状腺がんのリスクが推定より高いという人も、被曝後に見つかる甲状腺がんは普通の甲状腺がんより進行が速いと思っている方にも、この一般論の理解は重要である。
「早期発見・早期治療の害」から始めるという背景には、ここまで読んで多くの方が予想するように、私自身も「甲状腺がん検診は中止すべき」という意見を持っているということがある。しかし、ここまで読んで、「なんだ、甲状腺がん検診の継続は非だという人の話かよ」と思った人も少し我慢して読んでいただきたい。なにがしか役に立つ情報があるはずだ。
早期発見・早期治療の害には様々なものがある。その主なものについて説明しよう。
がん検診でがんの疑いと言われた人が全員がんかというと、そうではない。それは単にがんの疑いというだけで、実は大部分の人はがんではない。がん検診で精密検査が必要だとされたにもかかわらずがんでなかった人は、がん検診における「偽陽性患者」で、この偽陽性を避けることができないというのは、がん検診の害の一つである。
この偽陽性は単にがんの疑いをかけて不安にさせるというだけでなく、診断を確定するために針を刺して調べるとか、CT検査で被ばくするという身体的な害も含む。
それに対し、偽陰性と言って本当は
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