樫村愛子(かしむら・あいこ) 愛知大学教授(社会学)
愛知大学文学部社会学コース教授。1958年、京都生まれ。東大大学院人文社会系研究科単位取得退学。2008年から現職。専門はラカン派精神分析理論による現代社会分析・文化分析(社会学/精神分析)。著書に『臨床社会学ならこう考える』『ネオリベラリズムの精神分析』、共著に『リスク化する日本社会』『現代人の社会学・入門』『歴史としての3・11』『ネオリベ現代生活批判序説』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「愛」深き社会学者の横顔
社会学者で日本のフェミニズムの第一人者、上野千鶴子が、6月30日放送の「情熱大陸」(毎日放送制作/TBS系)に登場した(2019年7月7日までMBS動画イズムで見逃し配信中)。
どちらかといえば社会を「斬る」側の学者、その中で最も大きな影響力を持つ上野が、社会と格闘するさまをテレビカメラがとらえる。それを見たいというのは、社会学者である私の欲望でもあった(これまで彼女は、こういった密着取材は断ってきたらしい)。ちなみに1998年にスタートしたこの人物ドキュメンタリー番組で学者を取り上げた例は少なく、社会学者は今回が初めてである。
放送後の反応は、女子を中心におおむね共感の声が多かった。特に、病人や高齢者のケアについて「家族のように……」が最上の褒め言葉とされる「家族の呪い」を、上野が批判したことへの共鳴が強かった。
一方で、番組の内容は表面的過ぎて、上野千鶴子のいったい何を示せたのかという批判もあった。
だが、さすがは上野。「テレビ番組とはこういうもの」という枠に収まらず、そうした文脈(予測可能性)を超えていたと、私は思う。
番組は、若い時の家族写真を映しつつ、価値観を押しつけようとする父親との間に矛盾した愛憎を抱く「父の娘」だった上野と父との関係、その父の晩年の介護、また「(父に抑圧された)母の呪い」に触れていた。