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憲法学者・木村草太氏がPTA問題に答える(上)

「PTAフォーラム」で参加者との間で交わされた質疑を紹介します

木村草太 首都大学東京教授(憲法学)

PTAフォーラムで木村草太教授と意見交換

 都内で「PTAフォーラム~取り戻そう、わたしたちの手に~」が5月18日に開かれ、現役校長らによる講演やグループワークに、PTAの会員や非会員、役員や議員、市長など全国から約90人が参加しました。(詳細は「さまざまな形ではびこるPTA問題を語り合った!」

 フォーラムでは、憲法を切り口にPTAの役員の決めの苦労や任意加盟、PTA改革などについて積極的に発信してきたの木村草太教授(憲法学)を講師に迎えた質問コーナーも。参加者との間で活発な意見の交換がおこなわれました。詳細を「上」「下」2回でお伝えします。PTAフォーラムを振り返って質問も最後に追加しています。(構成 堀内京子・朝日新聞記者)

PTAフォーラムで話す木村草太さん=2019年5月18日(撮影・熊本日日新聞記者・原大祐)

司会(東京新聞記者・今川綾音) みなさま、こんにちは。今日は首都大学東京の木村草太教授をお招きしています。みなさまご存じの通り、木村先生は憲法を切り口に、PTAの役員決めの苦労や任意加入、PTA改革など、私たちの気になることを積極的に発信されています。今日は木村先生に「これはどうだろう?」という日頃の疑問を聞いてみてください。

法的には入退会が自由なPTA

★PTA会員
――明文化されていないルールが、「実はこうなの」と後出しジャンケンのように出てくることに悩んでいる。たとえば、「子どもが卒業するまでに役員をやらないといけない」とか「役員を1回やったらポイントがつく」とか。いつ誰が作ったルールかも分からないし、教育委員会などに相談窓口もない。会員はPTA規約に書いてないルールにも従わないといけないのか。

木村 入会時に、「明文化されていないルールがありますが、それにも無条件に従ってもらいます」という説明があり、それを認識したうえで入会届を出したのなら、原則として従う義務があるはずです。入会時に、そのような説明がないなら、入会の取消事由になるかもしれません。ただ、取り消さなくても、そんな不合理なことには従えないということなら、退会すればよいので、大きな問題ではないでしょう。

――「非加入が選択できる」とも言われていないのだけど。

木村 説明があろうとなかろうと、法的には入退会自由です。任意の説明のないPTAが不合理な活動をしている場合、「任意加入を徹底していない」という点だけを批判すればよいと思います。入退会の自由を周知せず、また、強制と誤解して会費を支払う人がいることを認識または期待して会費を取っているなら、詐欺罪でしょう。他方、PTAの活動は任意なので、不合理な運営をしたい人が集まって、不合理に運営しても、それは結社の自由でしょう。

――学校の「周年記念行事」のための積立金をPTA会費からしている。5年周期なので引き継ぎもないが、議員が来て式典、まんじゅう配って航空写真などに使う。PTAでやることなのか異議を唱えたら、「任意団体だからどんな活動でも受け入れるべきだ」と言われた。任意協力に変えたりすることができるのか。

木村 PTAはいつ解散してもいいし、やりたくなければやりたくないと伝えればいい。PTAを作る保護者には結社の自由があるので、学校に強制権はありません。

「非会員排除撃退マニュアル」を作る必要

★PTA非会員
――「登校班から非会員の子どもを外すのは差別だ」と言っても、学校やPTAからは「私たちは区別しているだけ」とかえされる。どうしたら理路整然と説明できるか?

soi7studio/shutterstock.com
木村 まず、登校班を学校が組織しているのだとしたら、PTAとは無関係なので非会員の子どもを排除できません。学校以外が組織している場合は、登校班も任意団体になる。入りたい人は入る、入らない人は入らない。

 ただ、登校班は、ある場所に集まって一緒に学校に行くという行動ですね。そこに、登校班の「会員資格」を持っていない人が入って一緒に行くということ自体は、私は可能だと思う。なぜかというと、誰だって公道を歩く権利はあるので、たまたま登校班と同じ時間にそこにいって、たまたま同じタイミングで歩き出すということはあるのではないかという。「あっちにいけ」と言われれば「私が公道を歩く権利を侵害するな」と、処理すればよいと思います。

 また、「PTAが学校で行うお祭りなどのイベントに非会員の子どもを参加させない」という問題は、学校で会員限定サービスをいいのか、という指摘をするべきでしょう。もちろん、地域団体や住民に体育館を貸し出すケースなど、学校が会員限定サービスのために貸し出されることはあります。

 しかし、PTAはPTA室の利用など学校から特権を受けています。これは、PTA が学校に通う全ての子どものためにある団体だからです。学校は、「会員限定サービスをするなら、特権は与えられません」というべきでしょう。このことは法律論的には明確なのですが、それを現場で主張しようとするとややこしくなることがあるということです。「非会員排除撃退マニュアル」のようなものを作っておく必要があると思います。

――現在、子どもが在籍していた学校のPTA会長とパワハラで訴訟になっている。総会で発言したら、都合の悪い文句は議事録から削除された。そういうPTAでも社会教育団体として認められるのか。

木村 まず、PTAは完全な任意加入かつ独立した団体なので、学校にはPTA に介入する権限はありません。ただし、学校内の施設を特権的に利用する場合には、その特権を付与する条件として「特定の子どもを排除しない」だとか「公共性のある活動をする」、という要件が課されていないとおかしいと思います。

次に、PTA会長のパワハラですが、パワハラはどの団体でも認められていないので、損害賠償ものだと思います。

PTA問題を難しくする経済的・心理的要因

★中学校のPTA会長
――過去のPTAの委員が、PTA活動が原因で持病の精神疾患が悪化してしまった。今後、そういうケースに会長や執行部に必要な対応は何か。また疾患が悪化した会員に対し、現役の執行部が何かする必要があるか。

木村 むりやりPTAが強制力を行使したんですか?

――「推薦委員」の活動をする中で、精神疾患が悪化したと聞いている。

木村 入退会は自由で、本人はやめられるということは十分分かっていて、続けていたのでしょうか?そこが重要です。労働問題でもよくある訴訟ではありますが、PTAが損害賠償を請求されるかは、「どこまでがPTAの強制で、どこまでが本人の問題か」がポイントになると思う。

 PTAは会員に対し安全配慮義務があるので、疾病が悪化すると予想できたのに、仕事を強要した場合は安全配慮義務違反にわれることになる。医師の診断書をPTAが把握しているなど、負担軽減の必要を認識していながら、負担を減らさずに放置していたとなれば、のちのち責任を問われる場合があります。

★高校のPTA会長で後援会長
――今回のフォーラムに参加して、基礎情報の必要性を感じたが、多くのみなさんがより分かりやすく知る手段はどこにあるのだろう。毎回、木村さんに聞かないと分からないというのでは大変だ(笑)。

木村 PTA 問題というのは、入退会の自由を徹底し、非会員の保護者やその子どもに対するいじめをやめれば基本的には解決するはずです。退会しても子どもがいじめられないなら、いつだって自信を持ってやめられますよね。ただ現実には、「PTAは任意加入です、入退会は自由です」と法的に説明されたところで、健全な運営ができない人がいるということですよね。それは、説明や情報の問題ではないのではないかと思います。

 要因はいくつかありますが、たとえば①学校がPTA会費に依存していて組織がらみでPTAを継続させようとする経済的要因や、②任意加入のPTAでフリーライド(ただ乗り)が許せないという心理的要因がある。

 まず、①経済的要因の場合には、学校を設置する自治体に、会計処理の適正化を要求すればいいでしょう。他方、②心理的要因の場合には、ある種の依存症でしょう。アルコール依存症に対する対症療法のように、「あなたは『PTA非会員いじめ依存症』になっていますよ」というのを知らせて、依存症をやめるプログラムを作っていく多様なアプローチが必要です。

木村草太さん=2019年5月18日(撮影・熊本日日新聞記者・原大祐)

PTAは「離脱不能な身分集団」のひとつか

★政治学を教えている大学教員

――私は、PTAの問題は、「自治の問題」の一種で、自治的に解決されるべきと考えている。先生は憲法学でのアプローチをされているが、今、憲法学的に、日本のPTA問題で一番解決しなければならないのはどういう問題か。

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木村 近代憲法学では、「離脱不能な身分集団から個人を解放する」ということが最重要の課題です。「離脱不能な身分集団」は、形式上は日本からなくなっているはずですが、現実的には残っています。PTAもその一つです。

 離脱不能な集団は、個人に不合理なことを押し付けがちです。PTA が離脱不能な集団になってしまっていることが、パワハラとか、登校班問題とか、多様な症例を生んでいると言えるでしょう。離脱が可能な集団であれば、あまりに不合理な運営をすれば、みんな離れていくので、運営する側も魅力的な集団になるように努力せざるを得ません。

 PTA問題に関しては、さまざまな相談を受けることがありますが、やめたい人がやめられれば解決するはずです。やめられない原因は、①任意加入が周知されていないか、自動加入になっていること、②形式的に入退会が自由でも、非会員の子どもに対するいじめへの不安などで事実上、非加入を選んだり離脱したりすることができないこと、などです。「入退会の自由」を周知することとともに、事実上の強制をなくすことでPTA問題は解消できると理解しています。

★PTA非会員
――行政や教育委員会が「任意加入です」と周知しても、学校や教職員から「これは続けてほしい」という思いが見えてしまうと、保護者としては入らざるを得ないかなと思う。それは、「行政が『結社の自由』をさまたげている」ということにはならないだろうか。

木村 命令とか強制の手段を使わないけれど、PTA会員である保護者に要求を突きつけてくるということですか? 自由の制約方法は「刑罰」とか「命令」に限りません。法的には、結社を続けるように要請する権限を行政は持っていませんから、行政に対して「継続を要求することはできないはずですよね」、と言えるはずです。

 ただ実際問題として、申しわけない気分になってPTAを続けてしまう人がいるというわけですよね。「どうしても続けちゃう」という人がいる、そのこと自体は、その人の自由なんじゃないかなと思います。それに賛同できない人は、自分が納得できる範囲で活動するなり、他の団体をつくるなりすればよいはずです。

PTA行事の参加条件は?

★PTA役員
――今春に任意加入を徹底し、入会継続の意思確認もしている。PTAがすべての子どもに対して差別してはいけないことは認識しているが、「保護者と教員」という会員対象の行事に、非会員の保護者は参加できるだろうか。

BlurryMe/shutterstock.com
木村 行事というのは、総会を会員限定で行うのはそれほどおかしいことではないので、子どものためのレクリエーションのようなものでしょうか? 一般論として、PTAが主催するレクリエーションは、「だれでも来たければどうぞ」とやる場合も、「会員対象のものです」と制限する場合もあってよいと思います。ただ、学校の施設を特権的に使うのか、地域の施設を使うか、学校の施設ならいつ使うのかにもよります。

 PTA のレクリエーションはいつやるんですか? 学校の授業中だとすれば、学校教育の時間なので、「PTA会員じゃなくても参加できる」としないと、問題になりますね。他方、授業時間外に、サッカーや野球教室と同様の条件でPTA が会員限定のレクリエーションを企画したとしても、特に問題は無いということになります。

★小学校のPTA会長
――今年度から任意加入を徹底し、いつでも退会届けを出せることにして、今は非会員が10人ほどいる。行事に非会員が紛れないようにチェックするため、PTA の委員会で名簿を管理したいのだが、非会員の名前は個人情報として守るべきだろうか。

木村 会員・非会員の区別なく、現会員の名簿があればチェックはできるんじゃないですか。ただPTAの主催行事は会員・非会員関係なく認められるべきなので、非会員のチェックというのは認められないはずですが。

――いちおう規約があります。たとえば、「PTA主催のもちつき大会は非会員を排除する」とか。

木村 たとえ規約があったとしても、「学校施設を会員限定サービス団体に特権的に利用させる」のだとすれば、場合によっては学校教育法に抵触しますから無効です。学校施設を特権的に利用したいのであれば、学校に通う全児童・生徒を対象として、非会員の子どもを排除しなければいいんです。PTA非会員の連絡先は分からないはずの情報なので、非会員でも来られるイベントを知らせるためには、手紙を学校でクラス全員に配ってもらうとか、そういう形で非会員にも門戸を開いていけば問題ないと思います。=「下」に続く(記事化に際し、回答は木村教授に再確認していただきました)。

」は7月7日に「公開」予定です。

次回の「PTAフォーラム」は、8月24日(午後1時~)に神戸市でを開催する予定です。会場は「こうべ市民福祉交流センター」。参加費2000円。終了後に懇親会(会費制)も予定しています。
フォーラムは、PTA問題を取材している朝日、東京、中日、北海道、熊本日日の各新聞社の記者らが社の垣根を越えてつながり、保護者も加わった実行委員会が主催。朝日新聞の言論サイト「論座」と「#ニュース4U」、東京新聞の子育てサイト「東京すくすく」が後援しました。