臺宏士(だい・ひろし) フリーランス・ライター
毎日新聞記者をへて現在、メディア総合研究所の研究誌『放送レポート』編集委員。著書に『アベノメディアに抗う』『検証アベノメディア 安倍政権のマスコミ支配』『危ない住基ネット』『個人情報保護法の狙い』。共著に『エロスと「わいせつ」のあいだ 表現と規制の戦後攻防史』『フェイクと憎悪 歪むメディアと民主主義』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「きちんとした回答をいただけていると思わないので、繰り返し聞いています」
望月衣塑子・東京新聞記者の官房長官会見での質問をめぐり、同紙が官邸から最初に申し入れを受けたのは、2017年9月1日だった。
「国民に誤解を生じさせるような事態は許容できない」
東京新聞政治部次長(官邸キャップ)という立場だった篠ヶ瀬祐司氏(当時)宛ての文書は、非常に強い調子でそう非難した。
この文書を出したのは、司会進行を務める、上村秀紀・官邸報道室長だ。2018年12月28日に内閣記者会に対して、米軍辺野古新基地建設をめぐる望月記者の質問を「事実誤認」だとして「問題意識の共有」を求める文書を出した同じ人物である。
9件に及ぶ東京新聞への申し入れで、官邸が初めて問題視したのは、1週間前の17年8月25日午前の記者会見で望月記者がぶつけた、加計学園問題についての質問だった。
そもそも、社会部記者である望月記者が報道各社とも政治部の取材範囲である官房長官会見に出席しているのはなぜか。
望月記者によると、目的の一つは、学校法人・加計学園(岡山市)が、岡山理科大学の獣医学部(2018年4月開校)を愛媛県今治市に新設する問題について質問するためだったという。
朝日新聞が17年5月17日朝刊で、獣医学部の新設に難色を示す文部科学省に対して内閣府が「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向」――などの言葉を使って、文科省に開設を急がせる様子を記した同省の内部文書の存在を報じた。この報道をきっかけに社会の大きな注目を集めることになった加計学園の加計孝太郎理事長は、安倍晋三首相が「腹心の友」と呼ぶ人物で、直接見解をただしたかったらしい。
しかし、安倍首相が官邸で記者会見を開く回数は年に数回ほど。例えば、17年は4回、18年は3回しか開かれなかったという。
首相会見では、東京新聞の政治部すら直接質問する機会は限られている。そこで目を付けたのが、内閣記者会が主催する官房長官の記者会見だった。原則として平日の午前と午後に2回開かれ、質問する内容や時間の限定はない。丁々発止の問答にたけた望月記者にはもってこいの条件だったともいえる。
2017年8月25日の質問に戻す。
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