川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞記者
朝日新聞記者。1959年生まれ。81年入社。学芸部、社会部などを経て、2006年から放送、通信、新聞などメディアを担当する編集委員などを歴任。著書に『変容するNHK』『テレビが映し出した平成という時代』『ニューメディア「誤算」の構造』。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
京都で定食店を営む中村朱美さんの『売上を、減らそう』を刊行したのは明石のライツ社
社員が残業をしない兵庫県明石市の出版社「ライツ社」から6月に刊行された、売り上げ増を目ざさない異色の定食店のビジネス書がスピード増刷された。長時間労働が定着している出版、飲食業界で、ともに働き方改革を先取りしたような会社の成果がヒットする時代となっているようだ。
ステーキ丼専門店「佰食屋」(京都市右京区)など4店舗を経営する中村朱美社長(34)の著書「売上を、減らそう」が出たのは6月17日。事業拡大を基調とするビジネス書では場違いなタイトルながら、25日には早くも2刷となった。
夫(48)が考案したステーキ丼をメニューに、2012年11月に開店。翌月、ブログで取り上げられて行列ができるようになった。14席と手狭だったため、2年後には来店を指定する整理券の配布を始めた。「将来の不安に備え、売り上げを増やすのはやめる」というスタート時からの哲学のもと、16年夏からはランチのみ百食が売れると、営業を終えるようにした経緯が著書には紹介されている。
残業もフードロスもない経営や障害者、高齢者、シングルマザーらも排除しない多様な採用が注目を集めた。日経WOMANの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞など、経営者や起業家としての表彰も数多い。
中村さんは「夕食を家族一緒にとる家庭に育ち、2人の子どもがいる自宅に早く帰りたいという私の思いを従業員にもと、残業なしにした。一緒に働きたい人を採用した結果、いろんな人が集まった。職場が羽を休める場所になればと考えている。時代の流れが変わってきていることは感じる」と語る。
地方から「店をやってほしい」という要望が多く寄せられている。今年6月には、フランチャイズで作れるキーマカレーなどのメニューによる50食限定の4店目「佰食屋1/2」をオープンさせた。業績至上主義とは異なる飲食店の新しいビジネスのあり方を提示しようとしている。
中村さんとライツ社のやり取りは、もっぱら昼間のメールだった。夕方5時半を回ると、互いにメールもほとんどしない。
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