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福島のもう一つの危機 被災自治体職員の疲弊

ヒーローにしなくてもよい。ただ、もっともっと理解が必要だ

前田正治 福島県立医科大学教授

拡大双葉町役場の1階。震災当時のものと思われる書類などがいまだ散乱していた=2019年6月13日

住民に先んじて帰還した自治体職員

 東日本大震災と、その後に引き起こされた福島第一原発事故から8年が経過しつつある。福島県においては、数多くの被災市町村が役場ごと避難するという、自然災害ではおよそ考えられない事態が引き起こされた。その後、除染などの復興事業が進み、避難を余儀なくされた多くの市町村が帰還を果たし、役場が帰還できていないのは、まがりなりにも双葉町だけとなった。

 その一方で、最近帰還したいくつかの自治体では、なかなか住民が戻ってこない、とくに若い人や子どもを抱えた人たちが帰ってこないことが大きな課題となっている。福島県の公表データでも、未だに4万人を超える県内外の避難者がいる(令和元年6月現在)。たとえば2年前に避難指示が解除となった富岡町は、今なお9,000人以上が避難していて、町内居住者は約1,000名にとどまっている(令和元年7月、富岡町HP)。

 このように住民帰還が思うように進んでいない中で、住民に先んじてもっとも早く帰還したのは、市町村自治体の職員である。公務員なので、それは義務であり当然だともいえる。しかし彼らもまた年余に及ぶ長い避難生活を送る中で、家族は避難先にすっかり馴染んでいる人々も多い。帰還は喜ばしいことではあるが、手放しで喜べる状況でないこともまたよく理解している。

 しかし、役場職員がこのような不安の声をあげることはないし、人々もまた町の復興や帰還に関心はあっても、自治体職員がどのようになっているかに関心を払う人はほとんどいない。

一般住民より著しく低かったメンタルヘルス指標

 筆者は、5年前に現職に着任して以来、被災者のメンタルヘルスとともに、被災自治体職員のメンタルヘルスの問題に強く関心を持っていた。その理由の一つが、東北大学によって行われた宮城県の被災自治体職員への深刻なアンケート結果である。うつ症状やトラウマ症状など多くのメンタルヘルス指標で、仮設住居に避難している一般住民よりも、自治体職員のほうが著しく健康度が悪かったのである。

 当時福島県ではそうしたデータはなく、着任後さっそく2つの被災自治体職員に対して、複数の精神科医による面接調査を行った。約150名の職員への、各人約1時間をかけた個別面接調査であったが、その結果は予想をはるかに超えた深刻なものであった。

 ほぼ全員に診断面接を行った結果、約2割の職員がうつ病と診断され、1割弱に自殺リスクを負っている職員がいたのである。さらに7割超の職員が睡眠障害で悩んでいた。彼らの多くが面談で言葉にしたのは、仕事の量的負荷が大きいことはもちろん、将来が見通せないこと、住民からの怒りに頻回に接したことなど多岐にわたる業務上のストレスであった。そして、彼ら自身もまた被災者であるにも関わらず、立場上被災者としての苦悩を語ることができずにいる、すなわち支援を求めることができずにいることも明らかとなった。

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筆者

前田正治

前田正治(まえだ・まさはる) 福島県立医科大学教授

1960年生まれ。久留米大准教授を経て、2013年から福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座主任教授。専門はトラウマ関連障害。ふくしま心のケアセンター副所長も兼ねる。著書に『福島原発事故がもたらしたもの 被災地のメンタルヘルスに何が起きているのか』(誠信書房)。