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福島のもう一つの危機 被災自治体職員の疲弊

ヒーローにしなくてもよい。ただ、もっともっと理解が必要だ

前田正治 福島県立医科大学教授


拡大避難先の「さいたまスーパーアリーナ」の通路に設置されていた双葉町の臨時町役場=2011年3月20日、さいたま市

復興の行方に直結する自治体組織の疲弊

 この結果は学会や論文等で報告し、それなりに大きな反響があった。しかしながら、被災自治体職員に対するケア・システムの構築はなかなか進まなかった。

 たとえばこうした自治体職員の疲弊にいち早く気が付いていたのは、震災後に設立されたふくしま心のケアセンターなどの支援組織スタッフであった。日ごろから市町村とのかかわりが深いだけに、このような危機にいち早く気が付くことができたのである。ただし、こうした組織のほとんどは被災住民ケアのために設立されているために、自治体職員ケアをどのような立場で行うかが不明瞭であった。

 なによりも問題であったのは、市町村など自治体自身がこうした問題への危機感に乏しいことであった。職員の多くは住民のケアや復興の進展に対して、職務として懸命に取り組んでいた。しかしながらその一方で、自らの健康に関してはあまり関心をもっておらず、まるで麻痺しているような感さえあった。実際には、震災前から数倍に膨れ上がった予算を処理し、住民の苦情に毎日対応しているうちに、健康を崩す職員が数多く出現していたのである。

 このような状況下で、2016年度には福島県で9名の自治体職員が自殺した(自治労調査)。この頃は、楢葉町の帰還を皮切りにいくつかの市町村が一斉に帰還を始めようとした時期でもあったが、自殺に関してはまさに異常な年というべきであった。そして自死者のうち、およそ半数が20代から30代という若い職員だった。筆者もまたその自死職員の一人について、詳細な調査のあと精神医学的な立場から意見書を書いた。この職員も公務員としての強い自負に支えられて激務をこなしていたが、まだ20代の若さで自らの命を絶ってしまった。

 こうした状況から、筆者の講座では、ある被災自治体に所属する職員全員へのメンタルヘルス面接調査を継続して行うことを決めた。その後3年間のフォローアップが終わったが、ここでは個々の指標がどうかというよりも、毎年2割もの職員が中途退職している事実のほうが衝撃的であった。面接では、入職してまだ日も浅い若手職員が、疲弊し意欲を失っている姿、そしてベテランの職員がどのようにして彼らに接していいのか戸惑っている様子がみられた。退職者が相次ぐ中、残された職員に負担が押し寄せ、またそれが負荷となって、メンタルヘルスが悪化したり、退職したりする、これはまさに悪循環であった。

 問題は、このような自治体職員の疲弊、組織の疲弊は復興の行方に直結してしまうことである。自治体職員はまさに復興の先兵であって、彼ら彼女らの存在がなければ復興はありえないのである。

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筆者

前田正治

前田正治(まえだ・まさはる) 福島県立医科大学教授

1960年生まれ。久留米大准教授を経て、2013年から福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座主任教授。専門はトラウマ関連障害。ふくしま心のケアセンター副所長も兼ねる。著書に『福島原発事故がもたらしたもの 被災地のメンタルヘルスに何が起きているのか』(誠信書房)。