メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

[31]デジタルタトゥーに阻まれる生活再建

「信用スコア社会」の新たな貧困とは?

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授

拡大ビッグイシューを販売する男性
 「路上に立って雑誌を売っていると、勝手に写真を撮られてSNSにアップされたりする可能性があるじゃないですか。家族にばれるとまずいので、ビッグイシューの仕事はできません」

 昨年、何度か生活の相談にのったホームレスの若者は、詳しい事情を語りたがらなかったが、家族との間に問題を抱えているようだった。体調も悪そうなので、私は生活保護を勧めたが、役所が家族に連絡をしてしまう可能性を考えて申請に躊躇していた。

 彼に、住所や住民票がなくても就ける仕事はないか、と聞かれたので、ホームレスの自立支援のための雑誌である「ビッグイシュー」販売の仕事について説明をしたが、その時に彼が言ったのが冒頭の言葉である。

 毎月2回発行される「ビッグイシュー」は、ホームレス状態にある人だけが販売することのできる雑誌である。販売者は1冊170円で雑誌を仕入れ、駅前などの路上に立って、350円で雑誌を販売する。1冊あたり180円が販売者の収入になる計算だ。

SNSに写真がアップされてしまうリスク

 「ビッグイシュー」の販売者の中には、メディアの取材に顔や名前を出して応じる人もいれば、事情により顔も名前も出せない人もいる。そのことは知っていたが、路上で販売をしていて、SNSに写真がアップされてしまうリスクについては考えたことがなかった。

 一度、ネットに「ビッグイシュー」販売者として顔が出てしまうと、その画像は半永久的にネット上に残り続ける。それを見た家族が販売場所まで来てしまう可能性もゼロではない。今の時代、彼の心配は杞憂とは言えないと私は感じた。

 ネット上にアップされた個人情報は、本人にとって不都合なものであったとしても、一度、拡散されてしまったら完全に削除することが事実上、不可能になる。この問題は、消すのが難しい「入れ墨(タトゥー)」にたとえて、デジタルタトゥーと呼ばれている。

 デジタルタトゥーという言葉は、2013年のTEDカンファレンスにおいて、生物科学関連のベンチャーキャピタルの役員であるフアン・エンリケス氏が行った講演がきっかけとなり、広く知られるようになった。エンリケス氏は、スピーチの中で「人間は不死になった」という表現で、この造語を紹介している。

 今年5~6月には、NHK総合テレビで『デジタル・タトゥー』というドラマ(全5回)が放映された。こちらは、インターネットに疎い50代の「ヤメ検弁護士」が20代の人気ユーチューバーと共に、デジタルタトゥーに苦しむ人たちを救うという筋書きで、このドラマをきっかけに日本でもこの言葉が知られるようになった。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)、『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』(エディマン/新宿書房)、『生活保護から考える』(岩波新書)等。

稲葉剛の記事

もっと見る