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ペットの室内飼い 世界の常識ではない!

「動物にはその動物本来の本能や自由がある」 世界の潮流をNZで聞きました

梶原葉月 Pet Lovers Meeting代表、立教大学社会福祉研究所研究員

 ニュージーランド、南島の海岸ニュー・ブライトンのビーチを歩いている。

 ギャラリーにいた牧羊犬、ビーチを走っている大型犬、たくさんの犬たちが楽しそうに散歩している。その多くは、リードで引かれてはいない。

ペットと社会3ギャラリーにいた牧羊犬、ニュージーランド・ヘディング・ドッグ=筆者提供

 何人かの飼い主に話を聞いてみたが、どの犬も例外なくシェルターから引き取った犬だった。そもそも、先進国では日本のようにペットの生体販売を許容している国はほとんどない。

 クライストチャーチの街中を散歩していた、あるピット・ブル・テリアは、片目で、耳にも裂けた跡が見られた。飼い主の話によれば、ニュージーランドでもアンダーグラウンドで闘犬が行われており、この犬も活動家が救出した犬なのだそうだ。元闘犬といっても、その犬は実におとなしく、いい子で散歩をしていた。

ペットと社会3元闘犬のピット・ブル・テリア=筆者提供

 ふと、目をあげると海岸に立つ看板には、犬にリードをつけた絵が書いてあった。

 なんだ、日本みたいにリードは「義務」なのに、誰も守っていないのか?

 しかし、コピーの文章をよく読むと、そうではなかった。多くの観光客がニュージーランドを訪れるシーズン(南半球なので11月から3月)だけは、海岸で散歩をする場合、リードをつける必要があるということだった。それ以外の期間は、犬の自由の方が守られているらしい。

ペットと社会3夏の間の犬のルール=筆者提供

 南半球なので、私が訪れたこの季節はシーズンオフ。犬たちはとても幸せそうだった。

家に閉じ込められている動物は幸せか?

 日本では、とにかく動物にも人間にも強制される規則が多い。もともと動物にも人間にも権利があったことを忘れがちである。

 今の日本では、動物の散歩時にはおしっこを流すペットボトルの水を持ち歩くのは常識で、最近はマナーオムツをつけた犬も見かける。

 日本の場合、現実問題として、いわゆる猫エイズ、猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)や、猫白血病ウイルス感染症(FeLV)が蔓延してしまっているので、猫を室内飼いにするのは致し方ない。犬にしても、ノミやダニ、フィラリア、そして気温の問題もあるので、室内飼いをする人が過半数だ。

 それ自体はなんともしがたい問題であるけれど、動物たちが家の中に閉じ込められている方が幸せと主張するのはどうなのだろうか?

 ときどき、日本では動物関係の活動家などが一般の飼い主に向かって、「ペットの室内飼いは、世界的に常識なんです!」と力説しているのを耳にするが、そんな常識は世界にない。

ペットと社会3RJ22/shutterstock.com

 私は、猫を室内飼いにしているが、人と動物の関係分野の学会ではいろいろな国の学者に驚かれた。アメリカの学者は「庭があるなら、せめて高い塀を作って外で運動させたら?」と言うし、イギリス人は「猫はテリトリーを持つから外に出すべきだ」と主張する。デンマーク人からは、「絶対自由に出すべきだ」と言われた。

 国によって、事情の違いは多少あるが、ともかく動物にはその動物本来の本能や自由があるのだから、そこを考えない飼い方は許されないというのが世界の本当の潮流である。

NZで人間の奴隷状態からの解放を議論

 動物の権利を当然のことと考える研究者たちが集う学会が、2019年7月1日から4日間、ニュージーランドのクライストチャーチであった。実は私はそこで発表するためにこの国に来ていたのだ。

 Australasian Animal Studies Association(AASA)というところが主催する学会で、今回の大きなテーマは「Decolonizing Animals」だった。言い方は難しいけれど、colonizeが「植民地化する」という意味なので、deがついているから直訳すれば「脱植民地化」あるいは「非植民化」ということだ。

 この言葉には、捕鯨や商業的な動物の大規模飼育や実験動物だけでなく、動物園や水族館から個人が飼育するペットにいたるまで、あらゆる動物の権利の侵害と支配を終わらせる、つまり奴隷状態の動物たちをいかに脱植民地化させるか……を考えていこうという意味が込められている。

 学者だけでなく、活動家やボランティアにも門戸が開かれたオープンな学会であり、世界から120人あまりが集まり、発表と講演を行った。

ペットと社会3Roman Samokhin/shutterstock.com

家猫が自由に外出して狩りをするのは倫理的に正しいのか?

 ユニークな発表が目白押しだったが、特に印象的だったのはオーストラリアで、キツネやディンゴ(オーストラリア固有の野生犬)の保護活動を行うチャーリー・ジャクソン−マーティン氏の話と、ニュージーランドの大学講師ニコラス・ホルム博士の家猫が外で行う狩猟活動の倫理を問う発表だった。ディンゴは犬の仲間ではなく、生物分類学上独自の種であるとの研究もあり、議論が続いている。

 ジャクソン−マーティン氏によれば、彼が活動するオーストラリアのニュー・サウス・ウェールズ州では、様々な在来種動物の保護と酪農の被害を減らすために、害獣駆除法(2014年)が作られ、キツネの保護は違法扱いにされてしまったという。キツネはそもそも、185年前にネズミの駆除のためオーストラリアに連れてこられた。それが今度は、産業に被害を与えるということで「極端に制度化された暴力」(駆除)にさらされているという主張だ。キツネが生態系を壊すというなら「集約的な農業こそが環境を破壊しているのだが、誰もそのことは指摘しようとしない」と、ジャクソン−マーティン氏は憤っていた。(Sydney Fox and Dingo Rescue

 日本では、寄生虫のエキノコックスの感染源ということで、接触してはいけないと言われているキツネだが、彼とパートナーが一緒に暮らしているキツネの写真はとても可愛くて驚かされる!

ペットと社会3キツネと暮らすジャクソン−マーティン氏。もちろん寄生虫の駆除、予防注射はきちんとしている=筆者提供

 ニュージーランド政府も固有の動植物を保護のため、「プレデターフリー2050」というプログラムを導入して、2050年までに外来種の根絶を目指している。

 ニュージーランドの在来の鳥や小動物を狙う外来のプレデター(捕食者)を全て駆除しようとしているが、幸い猫はコンパニオンアニマルなので、このプログラムからは除外されている。しかし、猫が野生生物に与える悪影響を軽減することに特化した国家猫管理戦略(National Cat Management Strategy)というのもある。

ペットと社会3窓から出かけていくホルムズ博士の猫アルテミス=ホルムズ博士提供
 ニュージーランドのマッセー大学上級講師ニコラス・ホルム博士は、猫が家庭に飼われていながら、家の内外を自由に出入りして狩りをする(他の動物を殺す)ことが、倫理的にどう位置付けられるかを考察していた。

 つまり、家に帰ればキャットフードがもらえるのに、猫が外で小動物を殺すのは、現代の人間が楽しみのために狩りをするのと同じように、不必要で不自然な行為なのか? 猫を人間社会のルールで拘束し、猫の狩猟行動を、環境を破壊する不自然な悪い行為であると決めて制限することは倫理的に正しいのか?

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