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豊島岡女子の高校募集廃止と教育格差/上

都内の女子進学高で唯一の高校募集がある豊島岡。2022年からは完全中高一貫校へ

杉浦由美子 ノンフィクションライター

拡大豊島岡女子高の合格発表風景

 東京、池袋にある豊島岡女子学園中学・高等学校は首都圏を代表する女子の進学校で、2019年度東大合格者は29人という進学実績を誇る。この豊島岡が2022年から高校募集を廃止することが発表され、首都圏の教育界にとってビックニュースとなった。

 東京都内は学力上位層女子の高校受験の選択肢が多くない。男子では開成、巣鴨、桐朋などの中高一貫校が高入生を受け入れているが、女子では慶応女子、早稲田実業などの大学付属を除くと、上位校ではほとんど募集がない。最後の砦ともいえる豊島岡が高校募集を廃止するとなれば、東京の学力上位層の女子は私立では中学受験をするしかなくなる。ただでさえ過熱気味の中学受験をさらに激化させ、そして、教育の格差を拡げかねない。今回は豊島岡の高校募集廃止がどう影響を及ぼすのかを見ながら、首都圏の教育事情を考えていこう。

都立日比谷人気の影で

 なぜ、豊島岡は高校入試をなくすのか。受験算数指導とメンタルサポートを行うアートオブエデュケーションの安浪京子先生はこう説明をする。

 「かつては高校入試で私立最難関校に落ちた受験生たちが豊島岡に入ってきました。しかし、現在は公立高校の進学実績が上がってきており、最難関校を落ちた子たちが都立高校を選ぶようになりました。また、豊島岡は場所柄、埼玉県から通う生徒も多かったのですが、埼玉県内の高校も私立も公立を問わず伸びてきており、距離的に通学しやすい埼玉の学校でいい、というケースも増えてきているんです」

 つまり、かつて、高校入試で学力上位層の女子の希望は、第1希望が私立最難関校、第2希望が豊島岡、そして、都立高校だった。しかし、現在の豊島岡は都立日比谷の滑り止めになっている。一昔前なら、高校入試で学力的に上から2番手の生徒が入ってきたが、今は3番手が入学するようになっている。これがどうして豊島岡として困ることなのか。

 中高一貫の進学校では高校3年生までのカリキュラムを高校2年生までに終えて、高3は丸々1年間受験対策にあてる。そのため、豊島岡も中学入学組(中入組)は中学時代から先取り学習をしている。高校入学組(高入組)は高校1年間、中入組とは別のクラスで違うカリキュラムで学習をする。高入組はたった1年で、中入組の進路に追いつかなければならない。随分と無茶なカリキュラムに感じるが。

 「難関の高校入試をくぐり抜けてきた生徒たちですから、決して無理なカリキュラムではないはずです。ただ、入ってくる生徒の学力が低下してくる場合は、厳しくなるかもしれません」(安浪先生)

 また、豊島岡は中学で入学する中入組と高校で入学する高入組があまり交わらないといわれる。

 「開成などの男子校だと中入組も高入組も高2で交わって仲良くなると聞きますが、豊島岡はそうならないこともあるようです」(アートオブエデュケーション、富田佐織先生)

 実際、卒業生たちに話を訊いても、中入組は「高入の子たちはギャルっぽい。中入組は非モテだから人種が違う」といい、高入組は「中入の子達は運針(毎朝布を糸で縫う慣習)を本気でやっていて、違和感があった」とコメントする。ただ、中入組と高入組は仲良くなることはなくても、対立することもなかった。距離を持ちつつ、「異人種」を観察するという感じだ。

 しかし、些細なトラブルはあったようで、10年ほど前のことだ。ある高入生は男友達が多いことから、「あの女は男好き」という中傷をネットに書かれたという。周囲は心配したが、書かれた本人は「嫉妬でしょ。無視よ無視」とまったく気にとめなかったという。ちょっとした諍いがあっても、それはいじめ事件には発展しなかった。しかし、現在は生徒の質が変わってきている。今、偏差値が高い私立中学高校でいじめ問題が深刻化している。子ども同士の人間関係が難しくなっていることもあるが、かつてならばいじめと認識されなかったことが深刻な問題として処理されることもあろう。

 「ネット社会になったことで虐めも多様化し、また、生徒たちがナイーブになっていることもあるでしょう」(富田先生)。

 一昔前なら放置してもよかった小さな確執が、今はトラブルに発展する可能性がある。これも豊島岡が高校募集をする理由ではないかという声もある。

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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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