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さらばADSL。普及率を語る時代とともに去りぬ

メディア新技術の開発とともに繰り返された多産多死

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

拡大ソフトバンクグループは。街頭で無料でADSLのモデムを配布する奇策に出た=2002年冬

NTT東西、ソフトバンクが相次いでサービス終了

 さる11月、NTT東日本とNTT西日本も「フレッツ光」の提供エリアで「フレッツ・ADSL」を2023年1月に終了予定と発表した。ソフトバンクも5月にADSL各種サービスを2024年3月末で終了すると発表した。

 「Yahoo! BB ADSL」と言えば、街頭でのADSLモデムタダ配り、NTT回線初期費用もタダ、という過激なキャンペーンで名を馳せたものだ。あれから20年になろうとする中、初期費用のハードルを下げて月額通信費で回収するビジネスモデルを国民的に定着させたのも、現在の4G回線(LTE等)やフリーWiFi(無線LAN)でのスマホ等利用にいたる有線・無線のインターネット通信回線の国民的な普及の先駆けとなったのも、下り回線のみ速い有線インターネット回線、ADSL(非対称デジタル加入者回線)であった。

 確かに20年前には個人的にもお世話になったサービスであり、「e-Japan戦略」に始まるIT普及・活用をめぐる政府を挙げての後押しを2001年当時から見てきた筆者としては、蒸気機関車の引退(1975年頃の北海道。幼少時の筆者はその時期に住んでいた)を見るかのように「ADSLありがとう。あなたのおかげで日本はここまで立派になったよ」という感慨をもって受け止めた。有線は光ファイバー(FTTH)、無線は4G(LTE、Wimax)となりさらなる高速化と安価に向かう、もう動画を見るのに端末と場所を選ぶ必要もない、「ブロードバンド・ユビキタス」はすでに死語、という幸せな時代に至った。

 思いおこせばこの20年、インターネット回線の高速化は、据え置きPCのための有線と、ケータイやノートPCのための無線、という二極的な利用シーンから始まった。Asymmetric(非対称=ダウンロードや閲覧だけ速い)Digital Suppliers Lineという過渡的技術は、当然ながら家庭内利用を前提とし、銅線による音声通話回線すなわち伝統的なイエデンを前提にした技術であった。

 スマートフォンやタブレット(以下スマホ等)が出現して10年以上たち、高速化した無線通信とパケット定額料金プラン(それでも足りない人たちの話は割愛する)、によって誰もが手元で動画を見られる時代になった。それはもはやイエデンも有線インターネットも必要ない人たちが大量に出現したことを意味する。「お茶の間」「核家族」などはすでに死語となり、首都圏郊外の住宅地すら高齢者や1人住まいの割合が顕著、ケータイ回線をライフラインと位置付けて防災対策が重大に講じられている。イエデンを持たない若い人の家庭などいくらもある。そうした中で、事実上ADSLとFTTHからなる有線インターネット回線の家庭普及率をもって、国民的なインターネットの普及を語る意味はもはやなくなっている。

 もちろん有線インターネットゆえのメリットは多数ある。ADSL がFTTHに置き換わりFTTH自体もさらに高速化することでADSLは役割を終えていくのだが、報道各社のニュースはなぜかADSLとFTTHの全国普及率(総務省調べ)など20年前の物差しで普及を論じ、しかもFTTHに置き換えての普及率100%を目指すかのような説明に終始している。専門知見のある記者の書いたものとして不思議と言うしかない。筆者の知る限り、情報通信ビジネスの管轄官庁である総務省全体としてはこうした事態をよくわかっていて、有線普及率を以って普及全体を語ろうとしているなどとは到底思えない。総務省が自治行政管轄官庁でもあるがゆえの何らかがあるのかもしれないがここでは触れない。

 重要なことは、情報通信とは「平時のビジネス」であり、「結果の平等を目指す政策的措置」ではないということである。インフラ投資の財源であるメディアコンテンツビジネスとは、回線料・コンテンツ料金・広告収入の3種類とその組み合わせ(全部で7通り)しか存在しない。しかもその選択は支払者の「人数」や「接触時間」や「必然性(命の次に大事、の類)」が決めるものでビジネス側が自由に選ぶことはできない。見たこともない新しいビジネスモデルだと世の中が驚かされてきたのは、その風変わりな販売促進策(キャンペーン)と事業売買(企業買収)に過ぎない。

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筆者

倉沢鉄也

倉沢鉄也(くらさわ・てつや) 日鉄総研研究主幹

1969年生まれ。東大法学部卒。(株)電通総研、(株)日本総合研究所を経て2014年4月より現職。専門はメディアビジネス、自動車交通のIT化。ライフスタイルの変化などが政策やビジネスに与える影響について幅広く調査研究、提言を行う。著書に『ITSビジネスの処方箋』『ITSビジネスの未来地図』など。

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