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「人権侵害」を指摘された東京都の一時保護所

子どもが心から安心して暮らせる場所か 第三者委員の意見書を読む

大久保真紀 朝日新聞編集委員(社会担当)

拡大ある一時保護所の一室

 東京都の児童相談所が運営する一時保護所で、入所する子どもたちに対して、私語や目を合わせることを禁止するなどの指導をしていることは「過剰な規制で人権侵害にあたる」と、第三者委員を務めた4人の弁護士が指摘していたことが明らかになりました。朝日新聞が情報公開請求で入手した意見書に書かれていたものです。すでに第一報は新聞で報道しましたので、今回は意見書の内容について詳しくお伝えしたいと思います。

子どもたちが「二度と行きたくない」施設

 一時保護所というのは、虐待や非行などの理由で保護が必要と児童相談所長が判断した子どもたちが最初に生活する場所です。東京都には7カ所の一時保護所がありますが、新規入所者は年間約2千人で、全国の入所者の1割弱を占めます。また平均入所期間は41.5日となっています。全国平均が約30日ですから、行き場がなく、長く一時保護所にいる子どもが少なくないということです。

 傷ついた子どもたちが保護され、最初に生活する場所ですから、本来なら、安全に、安心して暮らせる場でなければいけません。しかし、以前から一時保護所に入所した経験のある子どもたちから「対応がひどい」「二度と行きたくない」という声は聞いていました。ただ、密室状態の一時保護所でのことだけに確かな証拠がなく、表に出ることがありませんでした。

 いわば、ブラックボックス状態だった一時保護所は外からの目が入ることがなかったために、人権感覚に欠く対応が長いことまかり通ってきただけでなく、その背景にある職員不足や入所定員数不足についてもずっと放置されてきたと言えます。第三者委員は昨年度から都が自主的に導入した制度です。都の一時保護所の子どもへの処遇には問題がありますが、第三者委員制度を始めたことは評価できます。全国では外部評価を入れている一時保護所はごく一部、厚労省の調査では6%となっています。しかも、形だけと言われても仕方ないところもあります。都の第三者委員制度は法的な位置づけはない、自主的な制度です。今後は、法的な枠組みを作り、全国の一時保護所に真に第三者から成る第三者制度を作り、その評価を公表していくことが必要ではないかと考えます。

 東京都など都市部の一時保護所は定員超過が激しいので、全国の状況が全く同じとは言えません。しかし、自治体によって一時保護所の状況は違っても、子どもへの不適切な処遇問題は決して東京都だけの問題だということはできません。現に、関西の一時保護所に入所していた少女からも私語禁止のルールがあったことを取材で聞いています。137カ所(2018年10月現在)ある全国の一時保護所が、これを機に、自治体に都合のいい、形だけの外部評価ではなく、真の意味での第三者の目を入れ、自らの処遇を見直すきっかけにしてほしいと思います。

子どもを救うためには絶対必要だが

 児童相談所に一時保護され、心身ともに救われる子どもは少なくありません。一時保護は子どもを救うためには絶対に必要な制度です。児童相談所の職員も一時保護所の職員も懸命に働いていると思います。ならば、なおさら、もっと子どもたちにとって居心地のいい、子どもの人権に配慮した場所にしなくてはなりません。一時保護所が「二度と来たくない」と子どもたちが思うような場所ならば、再び一時保護をする必要がある場合でも、子どもを安全に保護できなくなるからです。

 「うちは東京都ほどひどくない」と言うのではなく、自分の自治体の一時保護所が、子どもが再び保護されるときに「行きたい」と思える場所となっているか、子どもが心から安心して暮らせる場所になっているか、一から点検する必要があるのではないでしょうか。

 今回私が入手した意見書は、子どもたちの声を丁寧に拾っています。4人の弁護士が手分けをして、1年にわたって七つある一時保護所にそれぞれ毎月1回ずつ、平均5時間をかけて子どもや職員から聞き取りをして、まとめたものです。意見書は、一時保護所での処遇に人権侵害にあたるものがあると指摘すると同時に、背景には定員超過の収容状況や職員配置の少なさに問題があると言及しています。つまり、職員は一生懸命働いているけれど、現状の定員や職員配置ではとても対応できないということを指摘しているのです。


 「被虐(待)や非行などの児童を24時間受け入れ保護する一時保護所が、ほぼ常に定員超過状態で運営されていることが、いかに異常な事態であり、この背景事情が一時保護所の運営に悪影響を及ぼしていることは、設置運営体である東京都が直ちに真摯に向き合う必要がある」と書いています。

 問題は職員の意識にとどまることなく、都が一時保護所の態勢や実態をどのように考えているのかということが問われているのです。この意見書を受け、都は今年度から入所定員を24人、職員を16人増やしたそうです。また運営のための指針を今年度中に作成する、としています。今後の改革の動きを見ていかなくてはわかりませんが、ハード面、ソフト面ともに本気で見直していくことが必要であることは言うまでもありません。

 40ページにのぼる意見書の内容を詳しく見ていきましょう。

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筆者

大久保真紀

大久保真紀(おおくぼ・まき) 朝日新聞編集委員(社会担当)

1963年生まれ。盛岡、静岡支局、東京本社社会部などを経て現職。著書に『買われる子どもたち』、『こどもの権利を買わないで――プンとミーチャのものがたり』、『明日がある――虐待を受けた子どもたち』、『ああ わが祖国よ――国を訴えた中国残留日本人孤児たち』、『中国残留日本人』など。

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