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警察署長を務めた私にも見えない公安警察の素顔

「警察が安倍首相の演説をヤジった人を排除したわけ」続編(1)

原田宏二 警察ジャーナリスト 元北海道警察警視長

警察庁が直接動かす「ヤミの警察」

 そもそも警備・公安警察とは何をやっている警察部門なのか。

 警察署長や方面本部長を務めた私でさえ詳しいことは分からないのだから市民が知るわけがない。

 一般的に記者クラブの記者たちの警備・公安活動に対する関心は低い。日常的な取材でも取材対象にしていなかった。警備・公安部門の警察官は口が堅く、しかも、警備・公安の仕事は情報収集であって事件捜査ではない。取材しても記事にはできないし、特ダネはないからだ。強引に記事にしたときには、取材拒否などの警察の報復が待っている。

 つまり、交番、刑事、生活安全、交通といった部門を警察の表の顔とするなら裏の顔、ヤミの警察だ。

 一説では戦前の悪名高い特高警察の流れを汲む部門だとされている。2003年から翌年にかけて道警をはじめ多くの県警で発覚した警察の裏金も特高警察の機密費が発端だとされた。

 警察の内部資料では、警備・公安警察の任務は、政治的主張の下に現体制を暴力的に破壊しようとする勢力、具体的には日本共産党、革マル等の過激派、朝鮮総連、イスラーム教徒などの外国人、労働組合、反戦運動などの市民運動、人権擁護運動などをこうした勢力とみて監視下に置き、その組織内に協力者(スパイ)を作ることが最大の任務だった。

 1958年ころ、私が最初に赴任した札幌中央署で交番勤務をしていたときのことだ。署の警備課の先輩から赤旗の記者を協力者(スパイ)にする作業に協力するように言われた。聞いてみると、その人物は私の小中学校の同級生だった。卒業後に会ってもいないので彼が赤旗の記者をやっていることも知らなかった。私はこれを断ったが、警察では先ほどの勢力が警察に潜入するのを防ぐため、警察官の志願者や現職の警察官本人はもとよりその周辺に共産党員やシンパがいないかを徹底的に調査するセクションがあった。どうやって、私の同級生に赤旗の記者がいることを突き止めたのか、不気味さを感じた。もし、私と彼が親友のような間柄だったら、私は採用されなかったし、昇任できなかった。実際、そうしたことが理由で昇任できないでいる優秀な部下がいた。

 警備・公安警察の最大の特徴は、各都道府県警察の警備・公安部門を警察庁が直接動かしていたことだ。警察庁は署長や方面本部長の頭越しに都道府県警察の警察官を使っていたのだ。

 何故、そんなことが可能か。それは、都道府県警察のトップが警察庁から出向するキャリア官僚だからだ。

 私が道警の組織や人事を担当する警務課長(警視正)のときのことだ。現場の署長らから交番の警察官が足りない、何とかして欲しいという要望が多数寄せられた。当時は、学生運動や過激派によるデモもなく、警備・公安部門の機動隊の出動もほとんどなくなっていた。機動隊員は訓練のほか雑踏警備や交通取り締まりに駆り出されていた。

 当時、機動隊の規模はどのくらいだったかは記憶がないが、その一部を削減しようと考え、機動隊の活動実態を調査するように担当者に指示した。

 ところが、調査が始まった途端、本部長から中止の指示がきた。警察庁からの指示だったようだ。

 私の組織改革はそれで終わった。

首相演説ヤジ排除に至る経緯

 安倍首相の演説に対するヤジ問題。2017年の東京都議選挙では秋葉原での演説の際、「安倍辞めろ」コールに首相が「こんな人たちに私たちは負けるわけにはいかない」と反論し批判を浴びた。

拡大安倍晋三首相が街頭演説をする会場にはプラカードを掲げて抗議する人たちも見られた=2017年7月1日、東京都千代田区

 結局、自民党はこの都議選に惨敗。それ以降、自民党は首相演説に対するヤジには神経を尖らせているらしい。

 今回の参議院選でも東京都内で安倍演説を巡って様々な動きがあった。

 7月7日、東京のJR中野駅前で行われた安倍首相と自民党候補者が行った街頭演説で、抗議活動の様子を撮影しようとした女性のスマートフォンを壊したとして、警視庁中野署が器物損壊容疑で女性(43歳)を現行犯逮捕した。中野署によると、直前に、女性が容疑者に「うるさい」と注意しトラブルとなっていた。当時、中野駅前には多くの反対派が集まり「安倍NO!」の横断幕を掲げ「安倍辞めろ」「帰れ」などと連呼していた。(7月8日産経ニュース)

 このときの様子をBuzzFeed Newsが『安倍首相による東京・中野での応援演説、政権への賛否で一部で衝突も 何が起きたか』のタイトルで写真入りで詳しく伝えている。その一部を引用する。

今回の参院選では7月7日現在、自民党のHPで安倍首相の演説日程を公表していない。(中略)そうした中、ネット上ではハッシュタグ「#会いに行ける国難」で、演説情報が急速に拡散。この日も、安倍首相が姿を見せると、怒号が飛び交った。(中略)支援者と見られる人の中には、日の丸を手にした人もいた。混乱が起きないよう、SPや警察官、関係者らが厳重な警戒態勢をとっていた。

<BuzzFeed News記者の当時のツイッター>そんな反対派の様子を撮影していた人の携帯電話を地面に叩きつけ、画面を壊した女性もいました。警察が仲介に入っています。

(中略)鳴り止まない「帰れ」や「安倍辞めろ!」コール。その声がある場所では、安倍首相による演説の声がかき消され、何を訴えているのかわからないほどだった。そのため、自民党を支持する人々からは「うっせーんだよ。帰れ」「選挙妨害だ」「聞こえないだろ」といった怒鳴り声も上がった。
政権批判のプラカードを掲げる人々の前に立つ自民陣営の関係者がいた。その手に「がんばれ自民党」「安倍総理を支持します」というプラカードが。報道陣のカメラに、批判のプラカードが写らないようにする効果があるように見えた。

 私はこの7月7日の東京中野での安倍首相演説の際の支持派と反対派の衝突が15日の札幌での道警のヤジ排除につながったと考える。

 札幌の後、7月18日には大津市のJR大津駅前で行われた安倍首相の応援演説にヤジを飛ばした男性が警備の警察官に取り囲まれ動けなくされる場面があった。(7月19日朝日新聞)

 札幌と大津のヤジ対策は警察庁の指示があったと考えるのが相当だ。そうでなければ同じことが起きる訳がない。

 参院選最後の安倍演説は7月20日東京・秋葉原だった。

 ここでも聴衆の一部から「安倍辞めろ」コールが沸き起こった。選挙カー周辺は自民党員や支援者が固め、反対する市民らは遠巻きに声を張り上げた。選挙カーに一番近い場所は、党がゲートを設置し入場を規制。「恥を知れ」「忖度」などと書かれた反対派のプラカードを遮るように、支援者らが首相を支持するプラカードやのぼりを掲げた。(7月20日朝日新聞)

 秋葉原では警察官による排除活動は見られなかったようだが、これは、札幌などでの警察の排除活動にマスコミなどが厳しい批判報道を行ったことの影響だろう。

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筆者

原田宏二

原田宏二(はらだ・こうじ) 警察ジャーナリスト 元北海道警察警視長

ジャーナリスト。元・北海道警察釧路方面本部長(警視長)。2004年2月に北海道警察の裏金疑惑を告発。以降、警察改革を訴えて活動中。著書に『警察内部告発者』(講談社)、『警察崩壊』(旬報社)、『警察捜査の正体』(講談社現代新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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