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警察記者クラブへの疑問と記者への期待(下)

「警察が安倍首相の演説をヤジった人を排除したわけ」続編(3)

原田宏二 警察ジャーナリスト 元北海道警察警視長

拡大東京・渋谷のNHK放送センター

NHKに報道しなかった理由を聞いた

 最後の「なぜ」。公共放送NHKが報道しなかった理由は何か。

 2004年3月4日、私は道警の裏金問題で北海道議会総務委員会に参考人として出席、捜査費や旅費などの大半が裏金に回り、幹部が私的流用していたことなどを証言した。このときの様子をNHKは全道中継した。

 私は昨年5月26日に放映されたNHKの逆転人生という番組に出演を依頼され、東京・渋谷のNHKスタジオで収録したこともある。内容は大阪府警の杜撰な捜査で若いミュージシャンが誤認逮捕された事件に関するものだった。

 そのNHKが今回の問題を全く報じなかったのはなぜか。安倍首相の演説の様子はニュースで伝えられていたのだ。おそらく、NHKのカメラもヤジを飛ばした男性らやこれを排除する警察官の様子を撮影していただろう。

 7月28日、視聴者の一人として、NHK札幌放送局へメールで放送をしなかった理由を尋ねてみた。私の予想では選挙の最中でもあり、選挙への影響を避けるため報道しなかったとでも回答するのだろうと考えていた。

 回答がなかったので31日にも再度督促のメールをしたが、現在に至るも回答がない。

 そのままで終わらせることはできなので、今度はジャーナリストとして東京・渋谷のNHKに聞いてみることにした。8月9日、代表電話に電話した。

 電話口の女性の「お名前とご用件を」に対して「NHKの報道について伺いたい」と伝えた。女性は「それではふれあいセンターへおつなぎします」とどこかへ電話を回そうとした。

 私は「ちょっと待ってください、私はジャーナリストとして取材のため電話しているのです」と伝え、視聴者としての問い合わせでなく取材であることを強調した。すると、女性は「しばらくお待ちください」とどこかへ確認しているようだった。

 1、2分待ったと思う。再び、同じ声の女性が「ふれあいセンターの責任者におつなぎします」といい、今度は「ふれあいセンターのスミタニです」と名乗る男性が電話口に出た。

 私は「札幌在住です。7月15日の安倍首相の街頭演説ヤジ排除問題で朝日新聞の言論サイト『論座』にも投稿しています。NHKはその問題を放送していないと思いますが、事実でしょうか。事実としたらその理由をお聞かせください」と尋ねた。

 スミタニなる男性は、最初の問いには「ちょっとお待ちください」と言った後「事実です。全国、ローカルとも放送していません」とし、次の質問については「何をニュースとして報道した、しないの理由について、個別的に説明をしていません。あくまで現場の自主的な判断で決めていることです」と答えた。

 私はさらに「ただいまのお話について文書またはメールで回答いただけませんか」と尋ねた。それに対しスミタニ氏は「メールでのお問い合わせはNHKオンラインウエブサイトからであればお答えすることもあります。文書での回答はできません」とのことだった。

 そこで私は「これまで2回NHK札幌局にメールでお尋ねしているが、いまだに回答がないのでそちらに電話したのですが」と尋ねると、スミタニ氏は「朝日の記者であれば対応するが、個人としての問い合わせには対応できません」と答えた。

 スミタニ氏とのやり取りは以上で終わったが、念のためスミタニ氏の名前と役職を確認したいと同じ番号へ電話をしたところ、電話に出た女性は「NHKでは名前は公表していませんし、姓の漢字説明もできません」とけんもほろろな答えだった。

 私は公共放送NHKがこれほど閉鎖的だとは予想していなかった。

道警幹部とNHK上層部の「手打ち」

 日本放送協会番組基準の第2章各種放送番組の基準第5項「報道番組」には、以下のようにある。

第5項 報道番組
1 言論の自由を維持し、真実を報道する。
2 ニュースは、事実を客観的に取り扱い、ゆがめたり、隠したり、また、せん動的な表現はしない。

 安倍首相演説ヤジ排除問題に関するNHKの対応は、明らかにこの「番組基準」に反している。

 私にはNHK札幌放送局が今回の問題を放送しなかった理由に心あたりがある。

 NHKは2016年9月、道警の現職の男性警察官が交番内の女性専用仮眠室で仮眠中の女性警察官をのぞき見したという不祥事を朝のニュースで報道したことで、道警に出入り禁止なったことがある。

 この問題については札幌のフリーのジャーナリスト小笠原淳さんが「見えない不祥事」(リーダーズノート)で詳しく書いている。出入り禁止になった事実については私も当時のNHK記者から直接聞いている。

 小笠原さんによると、当初、無期限とされていた出入り禁止は9日間で収束した。道警幹部からの打診でNHK上層部と道警幹部による夜の席で「手打ち」が行われたからだという。

 小笠原さんは道警とNHKに取材を申し込んだ。道警の回答は「本件は、報道発表を行っていない事案であり、取材への対応もしておりませんので、お答えは差し控えさせていただきます」。NHKは小笠原さんの取材申し込みに対してニュースで放送したことは認めたが、「NHKと道警の関係について第三者に申し上げることは控えさせていただきます。個別の取材先とのやり取りについてはお答えしていません」と回答したという。

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筆者

原田宏二

原田宏二(はらだ・こうじ) 警察ジャーナリスト 元北海道警察警視長

ジャーナリスト。元・北海道警察釧路方面本部長(警視長)。2004年2月に北海道警察の裏金疑惑を告発。以降、警察改革を訴えて活動中。著書に『警察内部告発者』(講談社)、『警察崩壊』(旬報社)、『警察捜査の正体』(講談社現代新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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