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飼い主の価値観で左右されるペットの看取り

どこまで積極的治療をするのか? あの子らしい生き方とは……

梶原葉月 Pet Lovers Meeting代表、立教大学社会福祉研究所研究員

飼い主は自分の価値観と動物の利益を同一視していないか

 「飼い主は、いつもペットのことを第一に考えている」とよく言われるが、現実はそれほど単純ではない。飼い主は、本来ペットの代弁者のはずだが、自分の価値観と動物の利益を、無意識に同一視する傾向があるとは言えないだろうか?

 例えば、欧米の場合は、病状がそこまで進行していないのに、不必要と思われる安楽死を求められ、獣医師が倫理的なジレンマに苦しむケースが多い。

 北米の獣医師889人に対するオンライン調査("Ethical conflict and moral distress in veterinary practice: A survey of North American veterinarians" [獣医診療における倫理的葛藤と道徳的苦痛:北米の獣医の調査] )では、29.3%が時々または頻繁に不適切な安楽死の依頼を受けると答えている。回答者の大部分の獣医師は少なくとも1回はそのような申し出を受けている。約19%が、この要求に時々またはしばしば同意したと答えた。44.6%が、そのような依頼が獣医師自身またはスタッフに中程度の苦痛を引き起こしたと述べ、18.7%が獣医師またはスタッフに深刻な苦痛を引き起こしたと報告した。

 日本では、これとは逆のケースも多い。

 動物の痛みや苦しみを考えると安楽死も考えたほうがいいと獣医師が提案しても、「この子はまだ生きたがっている」と飼い主が言い張り、返って動物の苦しみを長引かせたという話をよく聞く。

 治療しても効果がほとんどないと伝えても、少しでも可能性があるならばと考え、動物には負荷の高い治療を続けたがる飼い主も多い。これは欧米でも共通なのか、上記の調査で79%の獣医師は、役に立たないと考えられる治療の提供の要求を時々または頻繁に受けていると答えた。

 日本では、私の知るケースで「ペットが高齢で食べなくなったので胃ろうをしたい」と飼い主から相談された獣医師さえいた。

 このような問題は、海外では獣医学、倫理学、哲学の分野で検討され始めている。

ペットの看取り拡大135pixels/shutterstock.com

日本では研究途上

 「臨床医として、獣医の主要な義務は、動物の最善の利益にある」とは、世界で最も高名な獣医倫理学者、バーナード・ローリン氏(Bernard Rollin)の言葉である。

 知人の獣医師で哲学者のサイモン・コグラン氏(Simon Coghlan)は、この言葉を引用した最新の論文で、"Strong Patient Advocacy"という小児科医などで用いられる概念を用い「クライアントである飼い主ではなく、獣医師は、動物の強力な代弁者として行動するべき」だと主張している。結局のところコンパニオン・アニマルを扱う獣医師は、倫理的には小児科医に近いという("Strong Patient Advocacy and the Fundamental Ethical Role of Veterinarians" [強い患者擁護と獣医師の根源的な倫理役割] )。

 日本では、コンパニオン・アニマルを扱う獣医倫理については、まだまだ研究は進んでいない。

 先日も、ペットの死を受け入れられずに、(動物には非常に負担がかかるにも関わらず)最後まで通院して治療続けたいと飼い主が望むケースについて、獣医大のある教授と話した。今のところ、動物が飼い主の「所有物」である以上、飼い主が満足するようにするしかない。獣医大でもこの問題を取り扱うプログラムがないのが現状だと、その教授は教えてくれた。

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筆者

梶原葉月

梶原葉月(かじわら・はづき) Pet Lovers Meeting代表、立教大学社会福祉研究所研究員

1964年東京都生まれ。89年より小説家、ジャーナリスト。99年からペットを亡くした飼い主のための自助グループ「Pet Lovers Meeting」代表。2018年、立教大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。近著『災害とコンパニオンアニマルの社会学:批判的実在論とHuman-Animal Studiesで読み解く東日本大震災』。横浜国立大学非常勤教員、日本獣医生命科学大学非常勤講師。

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