菘あつこ(すずな・あつこ) フリージャーナリスト
立命館大学産業社会学部卒業。朝日新聞(大阪本社版)、神戸新聞、バレエ専門誌「SWAN MAGAZINE」などに舞踊評やバレエ・ダンス関連記事を中心に執筆、雑誌に社会・文化に関する記事を掲載。文化庁の各事業(芸術祭・アートマネジメント重点支援事業・国際芸術交流支援事業など)、兵庫県芸術奨励賞、芦屋市文化振興審議会等行政の各委員や講師も歴任。著書に『ココロとカラダに効くバレエ』。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「舞台に立つ人」が守られない日本の現実
私は、バレエ・ダンスを主な専門として新聞、雑誌に書かせていただいているフリーランス。近年、海外のバレエ団で活躍する日本人ダンサーがどんどん増えて、プリンシパルなどに上りつめるダンサーも出てきた。夏は欧米のバレエ団がバカンスに入り、彼ら彼女らが日本に里帰りしてくる季節。なので、日本ではそんな彼ら彼女らが出演する“ガラ(コンサート)”が増えて、欧米とは逆にバレエのピークシーズンのようになる。だから、私のような舞踊ジャーナリストは、この季節、普段は欧米にいるダンサーたちの踊りを日本で観て、インタビューして、と飛び回ることになる。
そんななかで、ここのところ会ったダンサーたちに海外の状況を聞いてみた。
まず、アメリカにはしっかりとしたユニオン、労働組合がある。バレエダンサーたちが入るユニオンといえば、通称「アグマ」と呼ばれる「AGMA(American Guild of Musical Artists)」。ピッツバーグ・バレエのプリンシパル、中野吉章さんに聞くと「ピッツバーグでは具体的に、週に30時間以上働くと残業手当。1時間ごとに5分休憩、3時間以上連続でリハーサルしてはいけない(昼休憩1時間を挟む)、1日のリハーサル時間は6時間まで。キャストの発表は3週間前まで、などと決められています」。また、装置の上で踊ったり空を飛んだりなど、2メートル以上の高さでの演技には危険手当が支給されるそう。
加えて、給料の値上げ交渉や、ダンサーたちの要望についての交渉が3年に1度、弁護士を通して行われる。それに、日本でも最近、大企業中心に広がりつつあるようだが、セクハラやパワハラ対策に、匿名で悩みなどを相談できる別会社が入っていて効果を上げているようだ。現在、入会金$1000、年会費$100で、それも値上がり気味ということで、入会金を見ると決して安いユニオンではないが加入者たちは意味のあるものと捉えていることがうかがえる。
こういったユニオンは、アメリカでは何も上記のバレエダンサーやオペラ歌手が所属する「AGMA」に限ったものではなく、例えば、ハリウッドなどの映画俳優やモデル、歌手などが所属する組合「SAG AFTRA(サグ・アフトラ)」があり、労働時間(撮影が遅くまでに及んだら、休養のための一定の時間を置かないと次の撮影はできない、など)や、最低賃金などをしっかりと決めて守らせている。また、裏方のスタッフのユニオンもあり、舞台の通し稽古でも、必ず中断して15分のコーヒーブレイクを取るという。
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