家庭介護で起きる虐待への防止支援の充実が必要だ
周囲へのSOSを出せずに事態が深刻化していく人がいる
田辺有理子 横浜市立大学医学部看護学科講師、日本アンガーマネジメント協会トレーニングプロフェッショナル
シリーズ「高齢者虐待防止×アンガーマネジメント」の2回目は、介護する家族の支援を考えていきたいと思います。実は、統計を見れば、介護施設での虐待よりも、自宅で介護する家族からの虐待のほうが圧倒的に多いからです。専門職向けの研修で講師に招かれることが多い筆者の田辺有理子さんですが、最近は「家族が学べる場が欲しい」という声が様々なところから届いているそうです。(「論座」編集部)
施設より家庭内の方が多い高齢者虐待
2019年3月26日付で公表された2017年度の高齢者虐待の対応状況等に関する調査結果によると、養介護施設従事者などによる虐待については、相談・通報件数は1898件、虐待判断件数は510件。養護者による虐待については、相談・通報件数は30040件、虐待判断件数は17078件で、いずれも過去最多だった。
介護に携わる人への対応としては、養介護施設従事者と養護者とに分けられる。統計値でみれば、養介護施設従事者による虐待よりも、養護者による虐待のほうが圧倒的に多い。

イメージ写真 SpeedKingz/shutterstock.com
しかし、高齢者虐待に関するニュースで話題になるのは、ほとんどが養介護施設における事件だ。高齢者虐待防止法の目的は、「高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資すること」だ。虐待をした養護者を罰するのではなく、支援の対象にするという考えだ。
養護者による虐待事例が安易にクローズアップされれば養護者支援から逸れた方向に進む危険性もある。そうかといって施設内の事件ばかりがニュースになれば、虐待は施設内で発生するイメージが先行し、介護の人材不足や過酷な労働環境などの課題は注目されて、家族など養護者への支援の課題が見過ごされてしまう。
虐待で一番多いのが「未婚の息子が親の介護」
介護や虐待のイメージや思い込みと実情を整理するために、厚生労働省の統計データをみてみよう。国民生活基礎調査では、3年ごとに介護の状況について調査している。2016年の調査において、ほとんど終日の介護を必要とする要介護者について、主な介護者の続柄は以下の順であった。
- 妻(女性の配偶者)35.7%
- 娘(女性の子)20.9%
- 夫(男性の配偶者)15.2%
- 嫁(子の配偶者の女性)11.9%
- 息子(男性の子)10.5%
次に高齢者虐待のデータを見てみよう。2017年度の「高齢者虐待防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果で、養護者による虐待における被虐待高齢者と虐待者との関係性をみると、虐待事例の87.1%が被虐待高齢者と虐待者が同居していた。
被虐待高齢者の家族形態は、「未婚の子と同居」が6257人(35.7%)で最も多く、次いで「夫婦のみ世帯」が3855人(22.0%)、「子夫婦と同居」が2307人(13.2%)だった。
被虐待高齢者から見た虐待者の続柄は、「息子」が7530人(40.3%)で最も多く、「夫」が3943人(21.1%)、「娘」が3251人(17.4%)と続く。
データから浮き上がってくる高齢者虐待が発生した続柄の特徴は「未婚の子と同居」「息子」、すなわち未婚の息子が親の介護を担っているという構図だ。次いで出てくるのが「夫婦のみ世帯」「夫」、すなわち老老介護の問題が見えてくる。
主な介護者が夫15%、息子10%で、4分の1が男性の介護者だ。「介護は女性が担うものという考えはもう古い」「男性も積極的に介護に関わらなくては」という社会的な意識の変化があるというよりは、「気づけば介護せざるを得ない現実が迫っていた」というのが実際だろう。