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足りない介護する側への支援

 2017年度の「高齢者虐待防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査」の結果及び高齢者虐待の状況等を踏まえた対応の強化について(老発0401第9号)という通知が、2019年4月1日付で厚生労働省老健局長から各都道府県知事に出された。

 通知の要点は、高齢者虐待への対応及び養護者支援の適切な実施に向けた、調査結果の検証・分析、市町村などの体制整備の充実、専門的な人材の資質向上、成年後見制度の利用促進などである。

 「養護者支援の拡充」については以下の内容が盛り込まれている。

 養護者による高齢者虐待の主な発生要因として「介護疲れ、介護ストレス」が挙げられており、これらの要因を軽減させるための取り組みとして養護者のレスパイトケアなどが効果的。具体的には、市町村などの高齢者虐待の相談・通報窓口の周知やレスパイトケアや怒りの感情のコントロールを含むストレスマネジメントの理解促進のための地域住民向けのリーフレットを作成・配布することによって、虐待の未然防止・期発見等の効果が期待できる。

 これは今年の通知に初めて出てきた内容ではなく、介護疲れや介護ストレスへの対策、そして感情コントロールの必要性は繰り返し提示されている課題だ。しかし、それが浸透しているかといえば、まだ現実的な変化が見えてはいないように思う。

アンガーマネジメント2拡大イメージ写真 sukiyaki/shutterstock.com

家族にも役立つ介護職向けのアンガーマネジメント

 ここ数年で介護職を対象としたアンガーマネジメントの研修は増えており、都道府県あるいは一部市町村の社会福祉協議会や介護関係団体の主催による集合型の研修に講師として呼ばれることがある。私は主に医療介護の分野で活動しており、虐待や不適切なケアを防ぐために感情のコントロールやストレスマネジメントが有効だと考えている。しかし、介護している家族、一般市民向けの介護技術や知識教育の中で、アンガーマネジメントのような感情のコントロールやストレス対処の方法を学べるプログラムはまだ一般的とはいえない。

 私は介護職向けにアンガーマネジメントを紹介する本を書いたり、Webコラムの連載をしたりして、その読者の方から質問が届くことがある。「介護職向けの内容でも家族にとっても役立つ」、「日常生活に活用できる」などと言っていただけることも多いが、なかには「家族が学べる場が欲しい」と言われることもある。個々に情報収集し知識を得ることも必要だが、体験を共有したり他者との考え方の違いに気づいたり、他者の経験からアイデアを膨らませたりするような相乗効果のある集合学習は、介護する家族にとっても役立つことが多い。

アンガーマネジメント2拡大イメージ写真 Aleksandar Nalbantjan/shutterstock.com

地域の相談窓口につながりにくい人たちがいる

 介護保険サービスを利用することが推進される一方で、地域によっても差があるかもしれないが「家族が介護するのは当たり前だ」と世間に思われているという意識も根強い。私の周りにも家族を介護している人はいるが、「虐待してしまいそうだ」といった内容が話題になることは多くない。

 私が研修の講師として出向いた先では、質問や相談を受ける割合が多いと感じるのは、当事者との関係性に適度な距離感があるからかもしれない。もちろん身近な人に大変だと相談できる人もいるし、自ら積極的に情報を集めてサービスを有効に活用できる人もいる。しかし、地域の相談窓口につながりがなく周囲へのSOSを出せずに事態が深刻化していく人も相当数いると思う。

 家族(養護者)を介護する人には、家族という密接な関係性ゆえのストレスがかかる。アンガーマネジメントのアンガーは「怒り」で、アンガーマネジメントは怒りなど自身の感情をうまく扱うためのトレーニングだ。

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筆者

田辺有理子

田辺有理子(たなべ・ ゆりこ) 横浜市立大学医学部看護学科講師、日本アンガーマネジメント協会トレーニングプロフェッショナル

精神看護専門看護師、保健師、精神保健福祉士。 看護師として大学病院勤務を経て、2006年より大学教員として看護教育に携わり、2013年より現職。看護師のメンタルヘルス、虐待防止などに関して、アンガーマネジメントを活用した研修を提供している。イライラをマネジメントして、いきいきと働き続けるためのコツを紹介する。 著書:『イライラとうまく付き合う介護職になる! アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規,2016)ほか。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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