ペットといつまで暮らせるか考えたことありますか
その高齢女性は問いかけた。「なんとかしてって……。殺処分しろって意味ですよね?」
梶原葉月 Pet Lovers Meeting代表、立教大学社会福祉研究所研究員
高齢者こそペットを必要としているのでは?
いま高齢者介護の現場では、高齢者が認知症でペットの世話ができなくなったとき、あるいは入院する、施設に入るとき、残されるペットをどうするのかといったことが差し迫った問題になっている。(例えば朝日新聞2019年1月21日、2019年2月28日、2019年4月3日など)
しかし一方で、動物との関係を生きる糧として老後の生活を送っている高齢者こそ、ペットを最も必要としている人たちではないだろうか?

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私の運営するペットロスの支援グループ「Pet Lovers Meeting」では、ミーティングや電話で、「この年齢だともう次の子は飼えないのでよけい悲しい」という話をよく聴く。
ペットフード協会の調査では、犬の飼い主のうち、23.7パーセントが60代、70代であり、猫の飼い主は17.9パーセントが60代、70代である(一般社団法人ペットフード協会「平成30年 全国犬猫飼育実態調査 主要指標サマリー」)。しかし、これはインターネットネットによる調査なので、ネットにアクセスできない高齢者は除外されている。それを考えれば、実際には、高齢者が飼い主全体に占める割合はもっと多いだろうと推測される。
この問題のフレームは、高齢者の暴走運転によく似ている。暴走運転の被害者遺族らから見れば、80歳以上のドライバーの免許を一律に返納させるくらいの政策が望ましいのかもしれない。しかし、現実問題として人口減少が進む過疎地で高齢者世帯の自家用車を取り上げれば、個々の生活にとどめをさすことになってしまう。
一方で、高齢者がそれなりのコストを払うのは仕方ない、家を出るたびに、タクシーで対処すればいいという意見もあるが、補助があるデマンドタクシーや低運賃のコミュニティーバスですべてカバーされるわけでもない。つきつめれば日本の過疎地に最期まで住めるのは、個人で人を抱えられる豊かな人だけということになるのかもしれない。

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動き出す高齢者飼い主向けビジネス
動物の終生飼養が飼い主の義務となっている今、ペット業界では、高齢者飼い主問題解決のため、あるいはこれに商機を見いだして、いろいろなアクターが動いている。
ペットと暮らし続ける場合
○ペット可の有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅
・一般的に大変高額
○自宅に来てペットの世話をしてくれる民間の団体あるいは企業
・例えば東京都豊島区では介護保険と保険外サービスを組み合わせる混合介護のモデル事業では1時間3千円前後でペットの世話を頼むことが可能(https://www.city.toshima.lg.jp/428/kaigo/documents/sentakutekikaigopanhu2.pdf)
ペットを預ける場合
○老犬ホーム、老猫ホーム
これらのオプションは、問題に直面していない人たちにとっては、「ちゃんとそういうものがあるなら、利用したらいい」と見えるかもしれない。

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しかし、ペットの飼い主の側からすれば、まずは自分の子ども同様に思っている動物の世話を任せたり、預けたりする相手をどこまで信頼できるかという問題があるし、次にはそのコストがかなり高額であるという問題も出てくる。
実際に、飼い主の死後にペットを引き取る契約を受け付けている民間団体の実態が告発されて問題になっているし、ペット可の有料老人ホームは、よほどの収入や資産がなければ入れるようなものではない。