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SNSで拡散される医事会計データの風評被害

南相馬市立総合病院で「原発事故後に患者数が激増している」とは言えない

澤野豊明 医師(外科・公衆衛生)

SNS通じて数字が一人歩きする怖さ

 今回拡散してしまったデータがここまではっきりと誤った解釈として説明できるにもかかわらず、依然としてSNSなどで拡散してしまっているのには、南相馬市の情報公開の仕方にも一端があると私は考えています。

 このデータが大山市議から発表されて以来、私を含めて院内の多くの職員が市あるいは市立病院に誤った情報を正す公式見解を発表することを求めました。対応は遅れに遅れ、結局約2カ月後、私が個人的に他の媒体で発表するのに遅れて南相馬市はこの情報に関する公式見解を公開しました。「当院と市内(地域)の他の医療機関とでは、診療科目、専門医の配置が異なります。よって、市内(地域)での主傷病件数の増減を、当院の医事会計情報だけで把握することは出来ないと考えます」というものでしたが、しかし、その内容は「誤り」や「大山弘一議員」などの文言は使われず、大山弘一氏の批判につながらないように配慮されたものでした。そのため、その公式見解は何が言いたいのかわからないとりとめのないものになってしまい、結局数字だけが一人歩きする形で何度もSNSで誤った解釈が発信される格好の材料になってしまいました。

 このような事態を憂え、私たちはマスメディアの方にも何度か情報発信、あるいはこういった誤情報が拡散している被災地の現状を報道してもらえないかと相談しました。多くの記者が興味を持ってくださる一方で、実際に報道にまで至ることはなく、政治家の批判を含んだ内容を報道することの難しさを痛感する形になりました。

 元をただせば、被災地の市議が現地で暮らす人たちを不安に陥れる誤った解釈を拡散することが最も批判されるべきことであり、私自身憤りを禁じ得ません。そうはいっても、既にこの誤情報が拡散している状況で、ただ発信元を批判をしていても仕方ありません。こうなってしまった以上、私たちがこの状況を好転させるためにできることは、正しい知識を啓蒙する以外に残されていないと思います。逆に言えば、現在の状況は、行政やマスメディアがしっかりとした役割を果たせず、風評被害が拡大してしまった一例とも言えるかもしれません。

 私たちの今までの研究やIAEA、UNSCEAR、WHOといった国際機関は、福島第一原発事故による放射線の体への影響は十分に低いと公式に発表しています注1注2注3注4。例えばがんの要因としては喫煙や生活習慣に比べて影響があまりにも小さく、放射線によるがんかどうかの区別は困難なほどと言われています。そういった状況の中、この情報がSNSで拡散されるのを見たり、市民の方から不安の言葉を聞いたりするたび、なんとかならないものかともどかしく思っています。この文章を読んで、一人でも多くの市民・国民の方が不安を軽減できることを願っています。

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筆者

澤野豊明

澤野豊明(さわの・とよあき) 医師(外科・公衆衛生)

神奈川県横浜市出身。千葉大学医学部医学科卒業。2014年より南相馬市立総合病院で医師として赴任。除染作業員など健康的弱者の健康問題や原発事故後の風評被害について調査を行い、現在福島県立医科大学公衆衛生学講座博士課程に在籍中。2019年8月より仙台市医療センター仙台オープン病院・消化器外科に勤務。