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「あいトリ」 こうして表現が窒息する

集団化と自発的隷従が加速する社会

森達也 映画監督・作家

実は存在しなかった「放送禁止歌」

 テレビで仕事をしていた1999年、僕はテレビドキュメンタリー「放送禁止歌」を発表した。放送はフジテレビの深夜枠だ。しかも関東ローカル。視聴率は1%にも満たなかったはずだ。だから多くのテレビ番組と同様にこのドキュメンタリーも、放送が終わった瞬間に忘れ去られる存在のはずだった。

 ところが放送後の反響は予想を超えて大きく、フジテレビは何度か再放送を行い、さらには放送禁止歌をテーマに本を書かないかとの依頼まで舞い込んだ。これが僕にとっての活字デビューとなる。

 とにかく「放送禁止歌」をテーマにしたドキュメンタリーを撮りながら、そしてさらに取材を重ねて原稿を書きながら、表現の自由と自主規制について僕は考え続けた。撮影のためのリサーチを始めたころは、権力による規制や弾圧が放送禁止歌の本質であることが作品の前提だった。でも取材を始めてすぐに気がついた。この問題について放送や音楽業界で働く人たちが語るとき、使われる述語は常に「らしい」とか「ようだ」なのだ。要するに伝言ゲーム。ただし始まりがわからない。ループしている。どこまで探っても伝聞なのだ。

 権力による規制も弾圧も見つけられない。やがて確信した。放送禁止歌は

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筆者

森達也

森達也(もり・たつや) 映画監督・作家

1956年広島県生まれ。オウム真理教に社会的な視点で迫ったドキュメンタリー映画「A」「A2」、テレビ作品「放送禁止歌」などで知られる。著書「A3」(集英社インターナショナル)で講談社ノンフィクション賞受賞。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです