毛利嘉孝(もうり・よしたか) 東京藝術大学教授
1963年長崎県生まれ。東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授。専攻は社会学、文化研究、メディア論。著書に『ストリートの思想――転換期としての1990年代』(日本放送出版協会)、編著書に『アフターミュージッキング――実践する音楽』(東京藝術大学出版会)など。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
あいトリ 日本という国の芸術文化に対する態度が試されている
あいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」(以下不自由展)の中止から文化庁の補助金不交付決定まで一連の動向については、すでに多くの人が抗議や懸念を表明している。
今回の文化庁の補助金の不交付決定が、事実上の「検閲」であることはすでに多くの人が指摘している。専門家によって審議され、交付が「内定」され、すでに実施が開始されている芸術祭に対して、その内容が時の政権が「気にいらない」からという理由で、交付を取り消すというのは前代未聞である。
菅官房長官をはじめ政府は、内容を問題視したのではなくあくまでも手続き上の不備であり「検閲にはあたらない」と主張しているが、それ以外の発言を見る限り、政府が「従軍慰安婦」や「天皇制」という内容を問題にしているのは明確だ。
この決定に対して、交付内定に関わった専門家に意見も聞くこともなく、決定に至った議事録も残されていないという驚くべき事実からも、ごく一部の政治家が政府を私物化し、不交付を決定したという批判を受けてもしかたがないところだろう。
そもそも芸術の現場を知る者にとっては、過去作品でもない限り、申請書を提出する段階ですべてを確定させることなど不可能である。発表の直前になって、すべてを最初から作りなおすということも日常茶飯事である。
変更のたびに、政府にお伺いをたてて許可を取るとなると、自由な表現活動を自粛させる可能性が極めて高い。今回の不交付の決定を認めると、政府の方針に反する議論に対して事前の実質上の「検閲」が広がっていくだろう。
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