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トリチウム水どうする 社会を一歩進める好機に

漁業者だけに責任を負わせてはならない

小松理虔 地域活動家

情報発信の信頼性の問題

 まず大前提として、海洋放出するのであれば、国際的な基準を満たした処理済みの水でなければならない。ところが、本当に処理された水なのか疑わしいのだ。

 2018年、トリチウム以外の放射性物質を取り除いたと説明してきたトリチウム水に、実際にはそのほかの放射性物質(ヨウ素129、ストロンチウム90など)が取りきれずに残っていたことが報じられた(朝日新聞福島県版2018年8月21日付)。敷地内の空間線量を下げるため、除去設備の吸着剤の交換頻度を下げたからだそうだ。であれば、最初から丁寧にそう説明すればいいのだが、公聴会ではそれらを「告知限度濃度以下」と記載した資料を使うなど、隠蔽とも取られかねない対応に批判が集まった。

 問題はそれだけではない。例えば、賠償を求めて住民が申し立てた紛争手続きにおいて、東電は、国の原子力損害賠償紛争解決センターの和解案を拒否し続けているが、この姿勢に対しても強い批判が集まっている。東電という会社全体の原発事故への向き合い方、情報発信のあり方には、常に厳しい社会の目が突きつけられているわけだ。

 だからか、東電の現場にも「どれほど真摯に発信しても信頼してもらえないのでは?」という不安があるのかもしれない。ならば、第三者機関が保管タンクごとに放射線量を測定し、情報を速やかに公開するという手もある。安全性が確認されたものから海洋に放出し、放出後も、第三者機関が海洋調査を行う。そして、その第三者機関を介し、東電の担当者と住民、ステークホルダーとの対話の機会を設けるなど、信頼を獲得していくことが必要ではないだろうか。

拡大福島第一原発沖の放射線量を測定する「うみラボ」の活動。釣り上げたアイナメを掲げる参加者=2015年8月9日、福島県沖

 筆者は、2013年秋から、福島第一原子力発電所沖で、海底土や魚の放射線量を測定して公表する「うみラボ」という民間調査チームに関わってきた。東電の発表は信じられないという人たちが、民間の調査データならセカンドオピニオンとして信頼できるというのを何度も聞いた。第三者機関の検査を受け入れるくらいにガラス張りの発信を心がけ、担当者が地域の集会所レベルのコミュニティまで頻繁に足を運び、住民やステークホルダーとの対話を地道に続ける。そしてそれをオープンにする。信頼回復のための地道な取り組みが必要だ。

漁業の自立が遅れる問題

 トリチウム水の放出が決定すれば、漁業者に補償が行き届くことになるのだろう。しかし、これが福島の漁業の自立を遅らせることになる。いま必要なのは、一刻も早く、福島の漁業を賠償から自立させることだ。トリチウム水をここで流せば新たな賠償が発生し、福島の漁業の再生と自立が遅れることになる。

 漁業の自立・再生が遅れると、高齢化も進み、水揚げ量は回復せず、家庭の食卓だけでなく、地域のスーパーで並ぶ食材、食堂やホテルで提供される食事、地域の食のイベントなど、水産業や観光業に関わる多方面にも影響が及ぶ。福島県の沿岸部全体の「観光」や「地域づくり」にも影響が出てくるということだ。目指すべきは、賠償を増やすことではなく「水揚げ」を増やし、地域の魅力を膨らませることだ。

 ようやく8年かかってここまで来たのである。福島県沖では、これまでの試験操業が事実上の禁漁措置となり、魚を獲らなかったぶん資源量が大幅に回復

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筆者

小松理虔

小松理虔(こまつ・りけん) 地域活動家

1979年生まれ。地元テレビ局記者などを経て、現在はローカルアクティビスト(地域活動家)。福島県いわき市小名浜で企画展示スペース「UDOK.」(うどく)を主宰。「いわき海洋調べ隊『うみラボ』」共同代表。『新復興論』(ゲンロン)で第18回大佛次郎論壇賞。共著に『常磐線中心主義』など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです