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高橋大輔の転向はアイスダンス界における救世主

田村明子 ノンフィクションライター、翻訳家

 9月26日、世界中のフィギュアスケートファンが吹っ飛ぶような、驚きのニュースが発表された。2010年バンクーバーオリンピック男子銅メダリスト、5度の全日本選手権チャンピオンである高橋大輔が、今年の全日本でシングル競技を終了、20年1月から村元哉中(かな)とアイスダンスチームを結成し、22年北京オリンピックを目指すという。

 オリンピックメダル、世界タイトルまで取ったシングル選手がアイスダンスに転向というのは、これまで前例のなかったことである。

 「高橋大輔選手のアイスダンス転向のニュースを知って、私はしめしめと思いました。これでアイスダンスに挑戦する日本のスケーターが増えると思ったからです」

 そう語ったのは、元全日本アイスダンスチャンピオンで現在はコーチをつとめる都築奈加子さんである。

 日本は男女シングルにおいては、現在では世界でもトップクラスの押しも押されもせぬスケート大国になった。だがアイスダンスやペアのレベルがなかなか追いつけないのは、圧倒的な競技人口不足のためだ。特に日本でカップル競技に興味をしめす男子スケーターを探すことが、とても困難なのである。

 都築さん自身、過去に3人のパートナーと全日本選手権で6度優勝しながらも、ついにオリンピック出場が叶わなかったのは、そのうち2人のパートナーが日本国籍を有していなかったためだった。

村元哉中(かな)とアイスダンスチームを結成し、22年北京オリンピックを目指すという高橋大輔と村元哉中(かな)のアイスダンスチームは2022年北京オリンピックを目指す

 メダルが取れないため近年ではテレビの地上波の放映もなく、マスコミもほとんど取り上げることがない。注目度が上がらないので、競技人口も増えない、という悪循環が長い間続いていた。空前のフィギュアスケートブームと言われながらも、アイスダンスは日本において長い間日の当たらない地味なところにおかれていた。

 そこに来て、スケート界のスーパースターである高橋大輔が、アイスダンス転向を宣言したのである。まさに、日本のアイスダンス界における救世主と言っても、過言ではないだろう。

 「まだ実際にカップルのスケートを見ていないので今はなんとも言えませんが、期待を込めて面白い挑戦だと思います。応援したいです」と都築さんは大きな期待をかける。

高橋大輔とアイスダンスの縁

 声をかけたのは、村元のほうからだったという。彼女はクリス・リードと2018年四大陸選手権3位、平昌オリンピック15位という日本のアイスダンサーとして歴代最高の成績を出しながら、2018年にパートナーシップを解消していた。

村元哉中、クリス・リード組日本のアイスダンスの選手層が薄いなか、村元哉中はクリス・リードと組んで、2018年平昌オリンピックで15位と好成績をおさめた

 実は高橋大輔とアイスダンスとは、これまでも縁が深かった。アイスダンスが好きで興味があることは何度か口にしていたし、過去に指導を受けたり、振付を依頼してきたニコライ・モロゾフ、シェイ=リーン・ボーン、パスカーレ・カメレンゴなどは、いずれも元アイスダンサーである。2011年の夏には、高橋自身がスケーティング技術を見直すために、フランスの著名なアイスダンスコーチ、ミュリエル・ザズーイのところでトレーニングをしたこともあった。

 そんな高橋に、村元は直接聞いてみようと決心したのだという。

 「大ちゃんは昔から憧れのスケーターで、音楽の捉え方や一つ一つの動作に、誰にもない個性がある。彼の世界を一緒にアイスダンスで体験してみたいなという思いがありました」。9月30日に行われた会見で、村元はそう説明した。

「身長差の少なさは問題にはならない」

 高橋は当初、面白そうだと思ったものの自分で良いのかと躊躇していた。

 「僕は身長も低いし、ダンス経験もないし、年齢も33歳で、大丈夫かなという気持ちでした」

 確かにリフトが伴うアイスダンサーは、男女の身長差があったほうが有利ではある。だがアイスダンスの強化にも関わってきた日本スケート連盟の関係者は、こう語る。

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