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即位の礼に伴う「恩赦」は時代遅れで意味不明

そもそも国民国家とは相いれない「恩赦」。政府は憲法との整合性を説明できるのか

五十嵐二葉 弁護士

近代国民国家で恩赦も様変わり

 このように専制的政治の手法に使われてきた恩赦だから、国民国家とは本質的に相容れない。

 国民国家では犯罪者とは、国民全体で維持しているはずの公共の秩序を破壊した者だから、そうした者に処罰を免れさせるのは、国民一般にとっては福ではなく、自らが守っている公共の秩序を否定する理不尽な政治になる。

 だから現在、ほとんどの近代国家が、恩赦という名の制度を残してはいるが、多くの国でその制度は、専制国家のそれとはまったく違う目的の制度に、事実上作り替えられている。

 主な先進国の例をざっと見てみよう。

アメリカの例

拡大sutham/shutterstock.com
 冤罪の死刑囚に、死刑執行命令が先に来るか、大統領の恩赦の通知が先に来るか、死刑囚と支援者の切羽詰まった表情のカットバック。アメリカの映画によくあるシーンだ。

 君主制を経験しないアメリカは、18世紀末に制定した合衆国憲法で、連邦犯罪については大統領に、州犯罪については州知事に、刑執行の延期と恩赦の権限を制度化した。

 しかし恩赦は、権力者側の恣意的な判断ではなく、まず受けたい本人や関係者の「温情申請」で始まり、連邦では司法省内に「恩赦弁護士事務局」があって、恩赦規則に従って相当性を判断して、大統領の権限行使について「忠告と援助」を行い、大統領はそれによって恩赦を決定する。

 大部分の恩赦は、裁判所の見落としと量刑ガイドラインからのあまりの逸脱に対して行われる。罪種を決めて広く行う大赦もあるが、少なくとも近年使われたことはなく、個人対象の3種、特赦、減刑、罰金または被害弁償の減額があり、司法省は毎年統計と共に対象となった個人の情報も公開している。大統領の決定には「どのような上訴もない」が、決められた期間を過ぎれば再申請ができる。

 現状の問題点としては、トランプ政権などでの事例をあげて、「大統領の関係者が大統領の利益のために犯した罪から解放するために政治的な利用が行われることだ」との指摘(丸田隆『アメリカ憲法の考え方』日本評論社2019年137頁)がある。

 ちなみにトランプ大統領が2018 年度に承認した恩赦は、特赦6人、減刑4人、罰金または被害弁償の減額0人だという。

イギリスの例

 日本より強い君主制のイギリスでは、恩赦権は国王大権の一部とされるが、日本政府が行おうとしている、罪や刑罰を定めて一律に行う大赦は、1930 年代以降、女王の即位など国家の慶事に際しても実施されたことはない。1995年成立の刑事上訴法16条に刑事事件再審委員会による恩赦の検討の支援規定があって、実質的には冤罪からの救済手段として運用されている。

 特赦、条件付き恩赦、刑の一部または全部の執行の免除の3種で、大法官と法務大臣の助言に従って実施される。「特赦」は、誤審の救済のため代替手段がない場合にのみ実施されるので、他に官民の多くの冤罪救済システムがあるイギリスでは、過去20年間に実施されたのは2回だけだが、冤罪からの救済が2件だけということではない。

 「条件付き恩赦」は、刑罰を他の刑罰に置き換える恩赦であり、死刑廃止の経過で用いられた。だが、死刑が廃止され、上訴審で量刑を変更することを可能とする刑事手続き改革により、必要とされなくなったと言われる。

 「刑の執行の免除」は、①深刻な健康上の問題がある場合等、②他の犯罪に関する情報提供を行った場合、③逃亡や死傷の防止で刑務所当局に協力した場合、④受刑者に釈放の期日を誤って伝えた場合等――について実施される。つまりは刑事手続き上の過誤からの救済と一種の司法取引に用いられている。

 したがって、君主の政治的手法としての利用は、イギリスではなくなっていると言える。

フランスの例

 フランスでは憲法17条に「大統領は恩赦を行う権限がある」と包括的に規定されていて、従来は広く複数の対象者に与える大赦も個別恩赦も行われてきた。現在でもその権限条項は変わっていない。従来、大統領選の後に大規模な恩赦が行われていたが、2007 年の大統領選以降行われなくなった。すでにヨーロッパ諸国ではこうした恩赦を行わなくなっていたことから、サルコジ大統領が「より君主的でない」大統領を目指してそれに従ったとされる。

 憲法はまた、34条に、議会の法律制定権限の一つとして恩赦をあげていて、刑法133条1か条だった恩赦条項が1992年以降の改正で133条-1から17までに詳細にされ、刑の執行の免除のみに効力がある「grâce」(恩赦と訳されることが多い=133条-7~8)と、刑の言い渡しの効力を失わせる「amnistie」(特赦のほか大赦と訳されることもあるが対象は個人のみ=133条-9~11条)があり、刑罰の言い渡しの不当性や改悛などを理由とする「abonnement」(申し入れ)を受けて裁判官が決定する。

 フランスでは「réhabilitation」(復権=133条-12~17)は、詳細な条件で新たな刑の言渡しを受けずに一定の期間が経過したときに得られる。

 このように、フランスでは恩赦はあくまでも個人の事情に応じた制度になり、対象者多数の日本でいう「大赦」は事実上なくなっている。

 ヨーロッパについては、EU域内ではEU理事会が立法権・行政権を持ち、加盟国に指令を出す。加盟国の国内法が、EU法またヨーロッパ人権条約などに違反するときは、指令の目的が適切に達成されるために、理事会が指示する期間内に、加盟国は自国の関連法を改正しなければならないから、EU加盟各国には現在、英仏の現状と同様の法実態があるはずだ。

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筆者

五十嵐二葉

五十嵐二葉(いがらし・ふたば) 弁護士

1932年生まれ。68年弁護士登録。山梨学院大学大学院法務研究科専任教授などを歴任。著書に『刑事訴訟法を実践する』など。

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