西山良太郎(にしやま・りょうたろう) 朝日新聞論説委員
1984年朝日新聞社入社。西部(福岡)、大阪、東京の各本社でスポーツを担当。大相撲やプロ野球、ラグビーなどのほか、夏冬の五輪を取材してきた。現在はスポーツの社説を中心に執筆。高校では野球部、大学時代はラグビー部員。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
W杯の記憶に残る指導者の姿
ラグビーのワールドカップ(W杯)は1次リーグ終盤、決勝トーナメント進出を巡って佳境を迎えている。
だが、ここでちょっと時計を巻き戻してみたい。開幕の夜の光景が、頭のかたすみに残っているからだ。
9月20日の日本ーロシア戦。ナイトゲームで行われた東京スタジアムの特別席で、日本代表の赤と白の横じま模様のジャージーをまとった安倍晋三首相の姿が、何度かテレビ中継で大写しになった。
「ジャージー」は本来、毛や綿、絹、化繊などの糸を編み、縮絨(しゅくじゅう)仕上げを施したメリヤス地の総称だ。イギリスのジャージー島の漁夫用衣料に用いられていたことに由来しているという(日本国語大辞典)。スポーツウェアのことを意味することも多いが、国内のラグビーではもっぱら、ユニホームそのものを指す。
かつてのジャージーは引っ張っても簡単には破れない強さはあるが、水分を吸収しやすく、80分間の試合が終わるときには汗でぐっしょりと重かった。
現在はポジションごとに違う素材を使い、軽量化が進む。耐久性や速乾性も格段にあがっている。メリヤスのジャージーを知る身からすると、現在は夢のようなしろものだ。
今大会の日本のジャージーは赤と白の横じまが一直線ではなく、胸部のデザインは兜(かぶと)の前立てをモチーフにしている。
さて、書きたいのは一国のリーダーとジャージーの話である。
開催国のリーダーは、公的な場にはホストとして中立的なスタイルで現れることが多い。自国のサポーターのような格好をするのは、私には少し違和感があった。
しかし、自国のユニホームを着た指導者の姿が、世界中の人々の胸を打った出来事がある。