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さあ決勝トーナメント 南ア戦はここを見よ【8】

一歩踏み込み、「にわかファン」もラグビー通に

西山良太郎 朝日新聞論説委員

サクラジャージー、組織力で快進撃

ラグビーW杯W杯のスコットランド戦を前に、練習を終えてロッカールームに戻る日本代表。でこぼこと体格の大小が入り交じるラグビーチームの象徴的な姿=2019年10月13日、横浜国際総合競技場、西畑志朗撮影

 胸にサクラのエンブレムを掲げ、地元開催の声援を受けた日本代表の快進撃が続いている。

 ラグビーのワールドカップ(W杯)1次リーグで、アイルランドやスコットランドという、これまで何度も苦汁をのまされてきた相手を倒しての4連勝である。過去8回の大会は、すべて1次リーグ敗退で終わった。心の奥底にたまっていたその無念を一気にはき出すような、決勝トーナメント進出である。

 ずっと楕円球を追いかけ続け、積もり積もった思いのある年季の入ったファンの一方で、今回のW杯開催を機にラグビーに関心を持ち、その迫力とスピード感に魅せられた人も多いと思う。

 そんな、「にわかファン」の皆さん。

 もう一歩踏み込むと、次の南アフリカ戦を見るのが、もっと楽しくなります。日本代表は、なぜ強いのか、どこがすごいのか。ラグビー通にも、「お、知っているね」と言われるポイントを、いくつかお伝えします。

組織で戦う「日本流」

ラグビーW杯パシフィック・ネーションズカップで、トンガ代表を相手にリーチ主将(左)と2人がかりで相手の突進を止めるトンプソン選手=2019年8月3日、花園ラグビー場、西畑志朗撮影

 日本代表には外国出身選手が増えたが、そのスタイルは「日本流」といっていい。

 ニュージーランドや南アフリカといった南半球のラグビー大国とイングランド、ウェールズ、フランスといった欧州の列強は、圧倒的な才能を持つ個の力を前面に押し出し、周囲がその力を支えるという考え方が、チーム作りの根底にある。

 だが、常に体格的に劣勢の日本は、違う考え方に立たざるを得ない。

 科学的で豊富な練習量によって体力アップを果たしたとはいえ、個人で相手を圧倒できる技術やスピードを持つ選手は限られている。必然的に組織力で、強豪国の個の力に対抗することになる。そうしたチーム作りが「日本流」だ。

 相手を突き刺すように、あるいは2人がかりのタックルで相手の攻撃を食い止め、疲れ知らずの集散とグラウンドを幅広く使ったパス攻撃の連続で相手の守備ラインに穴をあけていく――。

 4年前の大会の1次リーグで3勝をあげたスタイルを土台にしながら、さらに磨きあげたのが今回のチーム。そうしたチーム作りが決勝トーナメントへの道を開いた。

「前5人」に注目だ

ラグビーW杯10月13日のスコットランド戦の日本代表の先発(カッコ内は所属チーム)
 注目したいのは、フォワード(FW)の「前5人」と呼ばれる選手たちだ。英語では「タイトファイブ」と表現することが多い。(以下丸数字は背番号)

 背番号では①~⑤にあたる。順に①左プロップ、②フッカー、③右プロップ、④左ロック、⑤右ロックと呼ばれるポジションだ。

 スクラムでは③までが第1列、④、⑤番が第2列となって組む。

 反則(ペナルティー)などでのキックを除くと、中断されたプレーはほとんど、スクラム(*1)か、ラインアウト(*2)で再開される。セットプレーと呼ばれるもので、攻撃と防御の基点になる。

 *1 両チームのフォワードが組み合い、押し合う力比べ。中央にボールを投入し、後方に脚でかき出し、プレーを展開する

 *2 ボールがタッチラインを割った所に両チームのフォワードが向き合って並び、投げ入れるボールをジャンプして奪い合う

ラグビーW杯ラインアウトでボール獲得の核となるトンプソン選手。パシフィック・ネーションズカップのフィジー戦で=2019年7月27日、釜石鵜住居復興スタジアム、福留庸友撮影
 そこではマイボールを確保してバックス(BK)に展開することと、少しでも前進して相手に重圧をかけることが必要だ。前5人の選手は、それぞれ専門的な役割を担う。

 特にスクラムは、外から見ていると、どちらのチームが優位に立っているかわからないことが多い。組んだあとに頭から落ちて崩れるのは反則だが、悪いのはどちらなのか、ラグビー経験者でも判断は難しい。

 しかし、第1列の3人のうちの誰かがニヤリと不敵に笑ったとする。それは「こちらには手応えがあるぞ」というアピールになり、相手チームの反則に見えることもある(確固たる根拠はない。けれど、印象も大事だ)。

 ここまでは前5人の選手たちの基本技だ。

 これに加えて、ボールを持って走ったり、パスをしたり、さらにタックルしたりという、FWの第3列やバックス並みの能力を、前5人が身につけることによって、現在のラグビーは大きく進化した。

 ラグビー「にわかファン」の同僚から「プロ野球では選手は個々に背番号を持っていて、先発でもベンチスタートでも、番号は変わらない。でも、ラグビーではどうなの?」と尋ねられた。お答えします。選手はその試合の先発ポジションの背番号をつけて出場し、控え選手は⑯以降を付けている。だから同じ選手が、日によって異なる背番号のジャージーを着ることがある。

重量級フォワードがバックス並みに走る

ラグビーW杯W杯のスコットランド戦で、タックルを受けながら、巧みにボールをつなぐ堀江選手=2019年10月13日、横浜国際総合競技場、西畑志朗撮影

 日本代表の1次リーグ最後の試合となったスコットランド戦のデータをみてみよう。

 日本が4トライを奪い、28―21で勝った試合である。

 ボールを持って走った回数は、バックス(BK)でトライの場面を演出することが多いセンター(CTB)のポジションであるラファエレティモシー選手⑬が14回で最も多かった。しかし、フッカーの堀江翔太選手②が11回で、センターの中村亮土選手⑫と並んだ。

 タックルはどうか。

 一番多かったのは左ロックのトンプソンルーク選手④の16回である。もともとタックルの回数が多いとされるFW第3列のピーター・ラブスカフニ選手⑦の14回、リーチマイケル主将⑥の12回を上回った。

 これは現代のラグビーで、組織的な守りのレベルが上がったことと深く関係している。

 モールやラックといった密集からボールを出し、バックスラインがパスでつないで展開するとしよう。一番端(主にウィング=WTB=の選手⑪、⑭)まで一気に球を回せればいいけれど、それは容易ではない。

 そこで使われるのは、密集の近くでFWにボールを渡し、突進させるプレーだ。これはFWの突進で相手の守りを破るというよりは、1人でも多くの相手選手を密集に巻き込み、守備ラインに立つ選手を減らすことに狙いがある。

 攻撃と防御の人数で、優位に立つことが戦略を立てる土台となるからだ。

 また、FWの突進で少しでも前に出れば、相手の守備のラインを下げさせることにつながる。守る立場からすれば、後退を続けて守ることは肉体的にも精神的にもきつい。組織的な守備が崩れ、攻撃側に有利になる。

 こうした攻撃を連続していくと、攻撃ラインと守備ラインで「ミスマッチ」が起きやすくなる。

 各選手がマークする相手は、FW同士、BK同士が原則だ。しかし、攻撃が続く間にそれが入れ替わる「ミスマッチ」が起きることある。

 例えば人数が5対5の場面でも、攻撃側のBKをマークする守備側の選手が体重の重いプロップとなれば、スピードのあるBKは優位に立つことができる。

ラグビーW杯W杯のスコットランド戦で、相手のタックルを振り切ってライン際を疾走するリーチ主将=2019年10月13日、横浜国際総合競技場、上田潤撮影

 FWの第3列とよばれる背番号⑥~⑧の選手の役割も、変わりつつある。

 フランカーのリーチマイケル主将の姿を思い浮かべて欲しい。FWなのに、バックスラインの外側で待っている姿を度々目にすることがあるはずだ。

 これは戦術の一つで、BK並みのスピードと状況判断力を持つ彼の力を発揮させるためだ。マークする守りの選手がBKであれば、そこで「ミスマッチ」を作ることができる。

 FWの選手でも、BK同様のプレーができる。それが大きなポイントとなる。

スタジアムでもテレビでも

ラグビーW杯スクラムを押し、タックルを重ね、そしてボールを持って走る。現代ラグビーを象徴するプロップの稲垣選手。W杯スコットランド戦では代表7年目で初めてのトライを決めた=2019年10月13日、横浜国際総合競技場、福留庸友撮影

 試合をスタジアムで見るか、テレビで楽しむかで、観戦の仕方は違ってくる。

 テレビでは選手のアップの映像があり、表情までわかる。スローモーションもあり、一つの局面を多彩に伝えてくれる。トライシーンも、異なる角度の映像を見せてくれる。だが、カメラは原則、ボールの動きを追いかけていく。

 スタジアムは違う。チーム全体の動きを見ることができる。

 気になる選手がいれば、ずっと追いかけてもいい。あるいは、ボールとは離れた場所で選手がどんな動きをしているのか、意識して見るのも面白い。

 15人もの選手がそれぞれにあれこれ考え、判断しながら動いていく。そうした姿を見ていると、個人と組織のバランスをチームがどう考えているのか、といったことまで気になってくる。

 もしあなたが幸運にもW杯のチケットをお持ちなら、そんな広い視野での楽しみ方ができるだろう。

 戦術のことまで深く知らなくとも、ラグビーは楽しめる。

 けれど、チームの個性まで読み解くようになれば、ラグビーはさらにおもしろくなる。

 ラグビーの魅力は深く、広い。

 20日の南アフリカ戦も、その先も--。

 W杯の興奮の中、ラグビーにどっぷりはまってください。