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あいち芸術祭とNHKで起きた現代版「焚書」事件

「表現の自由への弾圧」を後世のメディア研究者や歴史家はどうみるか?

徳山喜雄 ジャーナリスト、立正大学教授(ジャーナリズム論、写真論)

国の補助金が全額不交付に

拡大閉幕後、記者の質問に答える愛知県の大村秀章知事=2019年10月14日、名古屋市東区
 河村市長の発言に呼応するかのように、菅義偉・官房長官や柴山昌彦・文部科学相(当時)も芸術祭への助成を見直す発言をした。ここには、「公金を受け取るのなら、行政の意に沿わぬ表現をすべきでない」という偏狭な発想が横たわっているように思える。

 大村知事は8月5日の定例会見で、「税金でやるからこそ、表現の自由、憲法21条は守らなければならない」とし、河村氏に対しては「公権力を持つ立場の方が『この内容はよくて、この内容はダメ』と言うのは、憲法21条が禁止する『検閲』ととられても仕方がない」と語気を強めた。

 この後、萩生田光一・文部科学相が9月26日、補助金約7800万円の全額を交付しないと発表。文化庁は不交付の理由について、「展示内容」ではなく、円滑な運営が脅かされる事態を予想していたのに申告しなかった「手続きの不備」を挙げている。これは前例のない異例の対応だ.

文化庁長官の頭越しの決定

 この補助金は文化庁所管だが、いっこうに宮田亮平長官の顔がみえない。宮田氏は元東京芸大学長で金工作家という表現者でもある。補助金を全額不交付にしたことについて初めて公の場で語ったのが、芸術祭閉幕後の10月15日。参院予算委員会で福山哲朗議員(立憲民主党)の質問に対し、「不交付決定を見直す必要はない」とし、さらに「私は決済しておりません」とも答弁した。

 今回の決定が文化庁長官の頭越しにおこなわれたということなら、政治の関与があったのではないかという疑問が頭をもたげる。だが、公金を時の公権力側を批判するために使ってはならないというのなら、それは考え違いであろう。

 公金は公権力側のためにあるのではなく、国民のためにある。公金の出所は国民の血税である。少数意見も含めて多様なニーズをくみ取り、共に考えていくために使われるものだろう。これは欧米ではスタンダードな考え方だ。

 冒頭のベルリンの地下の「図書館」にもどる。意見の異なる表現物がいっさいない真っ白な空間では、議論をたたかわす余地はない。今回の政治家の介入と、多くの覆面の脅迫は、圧力をかければ、あるいは騒げば、意に沿わぬ表現行為を封殺できるという、かたちを変えた「焚書」のように見えてならない。

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筆者

徳山喜雄

徳山喜雄(とくやま・よしお) ジャーナリスト、立正大学教授(ジャーナリズム論、写真論)

1958年大阪生まれ、関西大学法学部卒業。84年朝日新聞入社。写真部次長、アエラ・フォト・ディレクター、ジャーナリスト学校主任研究員などを経て、2016年に退社。新聞社時代は、ベルリンの壁崩壊など一連の東欧革命やソ連邦解体、中国、北朝鮮など共産圏の取材が多かった。著書に『新聞の嘘を見抜く』(平凡社)、『「朝日新聞」問題』『安倍官邸と新聞』(いずれも集英社)、『原爆と写真』(御茶の水書房)、共著に『新聞と戦争』(朝日新聞出版)など。

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