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八ツ場ダムは本当に利根川の氾濫を防いだのか?

治水利水の両面で必要性は失われている

嶋津暉之 水源開発問題全国連絡会・共同代表

 利根川水系の八ツ場ダムは、来年3月完成の予定で10月1日から試験湛水が行われているが、今回の台風19号により、貯水量が一挙に増加した。八ツ場ダムの貯水量が急増したことで、「台風19号では利根川の堤防が決壊寸前になった。決壊による大惨事を防いだのは八ツ場ダムの洪水調節効果があったからだ」という話がネットで飛び交っている。10月6日の参議院予算委員会でも、赤羽一嘉国土交通大臣が試験湛水中の八ツ場ダムが下流の利根川での大きな氾濫を防ぐのに役立ったとの認識を示した。

 しかし、それは本当のことなのか。現時点で国交省が明らかにしているデータに基づいて検証することにする。

拡大台風19号の大雨で水かさが増した八ツ場ダム=2019年10月16日、群馬県長野原町

八ツ場ダムの洪水位低下効果は利根川中流部で17㎝程度

 10月13日未明に避難勧告が出た埼玉県加須市付近の利根川中流部についてみる。

 本洪水で利根川中流部の水位は確かにかなり上昇したが、決壊寸前という危機的な状況ではなかった。加須市に近い利根川中流部・栗橋地点(久喜市)の本洪水の水位変化を見ると、最高水位は9.67m(観測所の基準面からの高さ)まで上昇し、計画高水位9.90mに近づいたが、利根川本川は堤防の余裕高が2mあって、堤防高は計画高水位より2m高いので、まだ十分な余裕があった。なお、栗橋地点の氾濫危険水位は8.9mで、計画高水位より1m低いが、これは避難に要する時間などを考慮した水位であり、実際の氾濫の危険度はその時の最高水位と堤防高との差で判断すべきである。

 八ツ場ダムの治水効果については2011年に国交省が八ツ場ダム事業の検証時に行った詳細な計算結果がある。それによれば、栗橋に近い地点での洪水最大流量の削減率は8洪水の平均で50年に1回から100年に1回の洪水規模では3%程度である。本洪水はこの程度の規模であったと考えられる。

 本洪水では栗橋地点の最大流量はどれ位だったのか。栗橋地点の最近8年間の水位流量データから水位流量関係式をつくり、それを使って今回の最高水位9.67mから今回の最大流量を推測すると、約11,700㎥/秒となる。八ツ場ダムによる最大流量削減率を3%として、この流量を97%で割ると、12,060㎥/秒になる。八ツ場ダムの効果がなければ、この程度の最大流量になっていたことになる。

 この流量に対応する水位を上記の水位流量関係式から求めると、9.84mである。実績の9.67mより17㎝高くなるが、さほど大きな数字ではない。八ツ場ダムがなくても堤防高と洪水最高水位の差は2m以上あったことになる。したがって、本洪水で八ツ場ダムがなく、水位が上がったとしても、利根川中流部が氾濫する状況ではなかったのである。

河床の掘削で計画河道の維持に努める方がはるかに重要

 利根川の水位が計画高水位の近くまで上昇した理由の一つとして、適宜実施すべき河床掘削作業が十分に行われず、そのために利根川中流部の河床が上昇してきているという問題がある。

 国交省が定めている利根川河川整備計画では、計画高水位9.9mに対応する河道目標流量は14,000㎥/秒であり、今回の洪水は水位は計画高水位に近いが、流量は河道目標流量より約2,300㎥/秒も小さい。このことは、利根川上流から流れ込んでくる土砂によって中流部の河床が上昇して、流下能力が低下してきていることを意味する。河川整備計画に沿った河床面が維持されていれば、上述の水位流量関係式から計算すると、今回の洪水ピーク水位は70㎝程度下がっていたと推測される。八ツ場ダムの小さな治水効果を期待するよりも、河床掘削を適宜行って河床面の維持に努めることの方がはるかに重要である。

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筆者

嶋津暉之

嶋津暉之(しまず・てるゆき) 水源開発問題全国連絡会・共同代表

1943年生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得満期退学。2004年年3月まで東京都環境科学研究所勤務。八ッ場あしたの会運営委員。著書に『水問題原論』(北斗出版)、『やさしい地下水の話』(共著、北斗出版)、『首都圏の水が危ない』『八ッ場ダムは止まるか』、『八ッ場ダム 過去・現在そして未来』(以上共著、岩波書店)などがある。