小田原市の経験に学び、徹底検証と体質改善を
2019年10月25日
10月12日から13日にかけて東日本を縦断した台風19号は各地で甚大な被害をもたらし、死者は80人を超えた。
東京都内の死者は当初、ゼロとされていたが、10月14日、日野市の多摩川河川敷で男性の遺体が見つかった。河川敷でテント生活をしていた70代の男性と見られている。
身を守る家を持たない路上生活者は、災害時に最も被害を受けやすい立場にある。
その点を踏まえ、世田谷区や川崎市では多摩川河川敷に暮らす路上生活者に事前にチラシを配布し、台風の接近と避難所の場所を知らせるという対応を取っていた。
問題が発生したのは、10月12日(土)の午後。台風19号が関東地方に接近し、気象庁が「ただちに命を守る行動を」と呼びかける中での出来事だった。
その日、都内のさまざまなホームレス支援団体は、それぞれの活動エリアにおいて路上生活者に台風への警戒を呼びかけ、避難所など安全な場所に誘導する活動を行っていた。
東京の東部地域で路上生活者への医療支援活動やフードバンク活動を展開してきた一般社団法人「あじいる」は、上野公園に近い台東区立忍岡小学校に自主避難所が開設されたのを確認。同小学校の場所を伝えるチラシを作って、上野駅周辺で野宿をしている人たちに避難を呼びかけていたという。
「あじいる」のブログは、その時の状況を以下のように伝えている。
乾パンやタオルと一緒に、忍岡小学校の場所を示す地図のチラシを配り、避難を呼びかけました。
みなさんのところを回り、あと数人というときに、一人の男性が「その小学校に、行ったけど、自分は●●に住民票があるから断られた」と消沈して教えてくださいました。
告知には、住民票についての情報など書かれていませんでした。「身の安全の確保を求めて避難所に行ったのに断られるとは!」…信じられない思いでしたが、その方は仕方なさそうに「ダメだって…」とあきらめたような微笑を浮かべていらっしゃいました。
私たちは、確かめるために、もう一度、忍岡小学校に戻りました。現場の区の職員の方々は、住所の無い人は利用させないようにという命令を受けていました。そこで、その場で台東区長が本部長となる台東区災害対策本部に問い合わせをしました。台東区で野宿をしている人々は避難所を利用できないという規則が本当にあるのか尋ねたところ、「台東区として、ホームレスの避難所利用は断るという決定がなされている」と、明確な返答でした。
すぐに、チラシを配ったエリアに戻り、事情を説明して皆さんに謝りました。中には、「あのあと、すぐに小学校に行ってみたけど、断られた」とおっしゃった方もいました。ずぶぬれに濡れて、私たちの謝罪に「いいよ。ありがとう」と片手をあげて答えていたその姿が脳裏に焼き付いています。
行政用語で言うところの「住所不定者」を受け入れないという決定は、現場の職員の判断ではなく、台東区災害対策本部としての決定であった。当日、台東区内の避難所で拒否された路上生活者は計3名いたという。
このことが「あじいる」のTwitterアカウントから発信されると、すぐさま台東区の対応を非難する声がSNS上で沸き上がった。
台東区議会の秋間洋議員(日本共産党)は、12日当日、台東区災害対策本部に抗議と改善を申し入れたが、区側の回答は「今回は受けられない」、「今回のことを教訓に、次回は対策を講じる」という内容だったとSNSで報告している。台東区の共産党区議団は後日、改めて文書で申し入れを行った。
屋外にいることが生命の危険を伴うという緊急時において、安全な場から路上生活者を排除する行為は、行政による社会的排除であり、究極の差別だと言わざるをえない。
また、災害救助法では、その自治体の住民だけでなく、その地に一時的に滞在している者を含めたすべての被災者を救助する義務を自治体が負っているとする「現在地救助の原則」が定められている。台東区の対応は法律に違反していると言えよう。
台東区への批判の声は大きく広がり、新聞やネットメディアも避難所から排除された当事者の声を取り上げた。
10月15日には国会でもこの問題が取り上げられた。参議院予算委員会での森ゆうこ議員(国民民主党)の質問に対し、安倍首相は「各避難所では、避難した全ての被災者を適切に受け入れることが望ましい。ご指摘の事例は自治体に事実関係を確認し、適切に対処したい」と答弁。武田防災担当大臣も「台東区に事実関係を確認し、適切に対処したい」と答えた。
こうした事態を受けて、台東区は15日午後5時過ぎ、ホームページに次のような服部征夫区長の謝罪コメントを掲載した。
「この度の台風19号の際に、避難所での路上生活者の方に対する対応が不十分であり、避難できなかった方がおられた事につきましては、大変申し訳ありませんでした。また、この件につきまして区民の皆様へ大変ご心配をおかけいたしました。台東区では今回の事例を真摯に受け止め、庁内において検討組織を立ち上げました。関係機関等とも連携し、災害時に全ての方を援助する方策について検討し、対応を図ってまいります」
事件発生から3日という短い時間で台東区が謝罪に追い込まれたのは、行政担当者の予想を超えて批判の声が広がったからであろう。
Twitter上には、抗議への反論や路上生活者への差別や偏見を煽るツイートも多数見られたが、ふだんはホームレス問題や貧困問題に関わっていない人も含めた多くの人たちが、「いのちの選別を許さない」という意思を表明したことの影響力は大きかったと私は考えている。
10月21日に開催された台東区議会決算特別委員会の冒頭、服部区長は改めて、「台風19号の際に、路上生活者の方に対する対応が不十分であり、避難できず、不安な夜を過ごされた方がおられたことにつきましては、大変申し訳ありませんでした」と陳謝した。
だが、対応が不十分で避難できなかった人がいた、という表現は事実をぼかしている。先に指摘したように、路上生活者は職員のミスで避難できなかったわけではなく、災害対策本部の意思決定により意図的に排除されたからである。
なぜそのような決定がなされたのだろうか。台東区は報道関係者に「事実として、住所不定者の方が来るという観点がなく、援助の対象から漏れてしまいました」と説明している。災害時に「住所不定者」が助けを求めて来るという事態を想定していなかったと言っているのだ。
台東区は、区内に山谷地域や上野公園があり、東京23区の中でも路上生活者数が特に多い区の一つである。今年1月に東京都が実施した路上生活者概数調査では、区内の路上生活者数は61人で、新宿区、渋谷区に続く第3位となっているが、過去には上野公園だけで数百人が暮らすテント村が存在した時期があった。
また、山谷地域の簡易旅館(ドヤ)や上野・浅草のカプセルホテルやネットカフェ等に泊まっている人も多く、
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