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「IOCファースト」の驕りがのぞく札幌移転

東京五輪マラソン・競歩会場、調整委員会の行方は?

増島みどり スポーツライター

IOCの提案を受けて記者の取材に応じる森喜朗・東京五輪パラリンピック大会組織委員会会長=2019年10月17日、東京都中央区、斉藤佑介撮影

「われわれがダメだと言えますか?」力関係を象徴した森会長のコメント

 10月17日夕方、都内で急きょ設定された2020東京五輪大会組織委員会・森喜朗会長の会見で漏れた本音が、問題の全てを象徴していた。

 「(IOC=国際オリンピック委員会)バッハ会長がこれでやりたいと言っている。国際陸上連盟(セバスチャン・コー会長)もそれがいい案だと言っている。われわれ(組織員会)がダメだと言えるんですか?」

 森会長は、東京五輪マラソンと競歩の札幌移転について、IOC側から、①東京よりも気温が下がる、②札幌では北海道マラソンが長く実施されている、③1972年冬季五輪を成功させた五輪ホストの経験都市、との3点をあげられたという。詳細の決定は、五輪開催地とIOCが定期的に行っている「調整委員会」(30日から都内)で検討する、と説明はした。しかし11日に初めて運営責任者であるジョン・コーツ調整委員会委員長から直接「マラソンと競歩を札幌に移転する」と伝えられた時点で、すでにIOCの決定事項であり、議論の余地などなかったのだ。

 バッハ会長はドーハで行われていた国際会議で「IOCはアスリートファーストの観点から選手を守るために、マラソンと競歩の開催地を札幌とする。これは決定だ」と断言。コーツ氏は、11日の電話で森会長に「(返答を)2時間だけ待とう」と切迫した様子で持ちかけたという。組織委員会にわずか2時間だけの猶予とは…。バッハ会長の独裁的なやり方に、最近ではIOC内部でさえも困惑していると言われており、IOCの組織としての混乱もうかがえる国際電話だ。

運営の現場は無視された政治的決定

 オリンピックは都市が開催するイベントであり(サッカーW杯は国が主催)、15日まで事態を知らず「蚊帳の外」に置かれた格好の小池百合子都知事は不快感を示す。同様に、競技運営に携わり、マラソン、競歩の強化を担ってきた日本陸上競技連盟には、国際陸連の理事でもある横川浩会長がいるにもかかわらず、瀬古利彦プロジェクトリーダーはじめ現場が「報道で知った」と明かす。スポーツの祭典どころか、アスリート、運営の現場は無視された「IOCファースト」の政治的決定である。

 マラソンは「オリンピックの顔」とまで言われ都市を象徴する種目で、競歩は東京五輪で日本の金メダル最有力種目である。10カ月を切った今になって、スタート時間をさらに前倒しする案や、コースの変更、予備日の設定といった現実的、かつ実現可能な対応策ではなく、開催提案にもなかった札幌への移転の決断をしたのはなぜか。背景には、ともすれば、生命に危険を及ぼすほどの酷暑の惨状というものをIOCが目の当たりにした恐怖と、酷暑による選手の健康被害が、今後のオリンピックムーブメントやIOCにどれほど深刻な影響をもたらすか、こうした危機感がある。

メディアセンターをメディカルセンターに急きょ差し替えたドーハ世界陸上

 9月6日まで、中東で初めて行われたドーハ世界陸上は(筆者が現地取材)、改めて選手の健康こそ競技の原点にあると考えさせられるものだった。大会初日に行われた女子マラソン、2日目の男子50㌔競歩は欧州で開催に否定的な声があがり中止も議論となる結果に。実は、両種目が行われる海沿いの会場では、国際陸上連盟、ドーハ組織委員会の焦りを示す緊急工事が行われていた。

 メイン競技場とは別に、ロード競技の会場横に設置される報道陣の仕事場となる「メディア(プレス)センター」は非常に狭く座席が足りない。また必ず設置される何台ものテレビや、速報タイムをまとめて保管するためのボードもなく違和感を抱いた。一方、

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