前田史郎(まえだ・しろう) 朝日新聞論説委員
1961年生まれ。神戸、広島支局、東京・大阪社会部、特別報道部等で事件や原発・核問題、調査報道、災害などを担当。社会部デスク、教育エディター、大阪・社会部長、同編集局長補佐、論説委員、編集委員、論説副主幹を経て18年4月から現職。気象予報士。防災士。共著に『プロメテウスの罠』『核兵器廃絶への道』等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
情報発信の課題、ハード頼りの限界
この秋、日本は三つの台風による激しい風雨に襲われた。
9月初めの台風15号では強風による屋根瓦などの家屋被害が5万棟を超え、約1カ月後に関東に上陸した19号では記録的な大雨で河川の堤防決壊が140カ所以上で起きた。その2週間後、21号の影響による大雨で関東各地で冠水や土砂災害が発生。死者・行方不明者は計100人を超え、被災家屋は10万棟以上にのぼった。
なぜこれほどの被害が出たのか。
最も激しかった台風19号の対応から、災害列島の弱点を考える。
台風は事前にどこに危険が及ぶのか、大体の予想がつく。住民への情報提供は適切に行われていただろうか。
気象庁は台風19号が上陸する前日の10月11日、記者会見を開き、「昭和33(1958)年9月の狩野川台風に匹敵する」と注意を呼びかけた。
伊豆半島の狩野川を氾濫させた狩野川台風は、死者・行方不明者が1200人を超えた有名な台風だ。昭和の3大台風(室戸、枕崎、伊勢湾)と並び、被害の大きな台風として知られている。
だが、結果として、19号は、確かにコースや勢力は似てはいたが、雨をもたらしたエリアは19号の方が広かった。宮城、福島などの東北で犠牲者が出た点で、狩野川台風とは大きく異なった。過去の台風を例示することは、情報の受け手に具体的なイメージをもってもらう効果はある一方で、特定の地域だけに注意が向くリスクもある。地域によって、住民の油断を招いた面はなかったか。
気象庁や内閣府は、2018年の西日本豪雨で、気象情報や自治体の避難指示が住民の避難行動に結びつかず、200人以上がなくなったことを受け、19年春から情報に5段階のレベルをつけて発表し始 めた。今回、最高のレベル5に相当する大雨特別警報を13都県に出したが、またも浸水した建物に取り残されたまま亡くなる人が相次いだ。
気象庁の関田康雄長官は10月16日の定例記者会見で、狩野川台風をあげたことについて「(狩野川台風で)被害がなかった地域は安全だという誤解を招くおそれがあることは承知の上でこのキーワードを出した。それ以外の地域でも記録的な大雨になることをしっかりとお伝えしたつもりだ」と述べた。
今回の情報発信の是非は、今後、気象庁として検証するという。
犠牲者を多く出した福島県や宮城県も、上陸地点から遠く離れていた。新幹線の車両基地が浸水し、120両の北陸新幹線が水没した長野市は進路から離れていた。千曲川の決壊現場に近い長沼地区の住民は言う。