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東京でも札幌でも狙うはあくまで金メダル

史上最強の競歩陣、移転プランに自信

増島みどり スポーツライター

東京五輪マラソン・競歩の札幌移転決定を受けて、会見に臨む日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダー(左)、麻場一徳強化委員長(中央)、河野匡長距離マラソンディレクター=2019年11月5日

現場が主張できず、遅すぎる愚痴にしてしまった日本陸連の異様な萎縮

 11月5日、日本陸上競技連盟(日本陸連)は、10月16日に突如IOC(国際オリンピック委員会)バッハ会長が明かした2020東京オリンピックマラソン・競歩の札幌移転について公式に初の会見を都内で開いた。

 麻場一徳強化委員長は「(五輪まで9カ月切っての移転は)あってはならない決定」と話したが、こうした現場の主張ならば10月、IOCが都内で3日間行った調整委員会を前に、または期間中に行うべきだった。同委員長は会見で「覆せない状況で愚痴を言っているだけでは生産性がない」とも発言。しかし10月に行われていれば、マラソン担当の強化コーチである河野匡氏、瀬古利彦プロジェクとリーダー、山下佐知子女子強化コーチ、さらに集約した選手たちの声を内外に強く発信できた主張を、遅すぎる愚痴にしてしまったのも日本陸連だ。

 一連の決定、議論の最中に、国際陸連理事という要職にあるはずの横川浩・日本陸連会長はコメント発表のみで、実務方の責任者である尾縣貢専務理事(JOC強化本部長)も5日も欠席している。強化の現場の気持ちは言うまでもなく、代弁すべき立場の日本陸連幹部の保身や組織の在り方、またIOC、組織委員会、国際陸連への中途半端な様子見が露呈する会見だった。

 真剣勝負の選考会としてMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)をコース設定から約5年、「100億円は下らないでしょう」(河野氏)と労力、経費をもふいにされたマラソン陣が初めて心境を吐露したのに比べ、同じ会見に出席した競歩の今村文男・強化コーチの口調は少し異なっていたように受け取れた。

事の発端となった酷暑のドーハ世界陸上で金メダル2つの競歩陣

 札幌のコース設定について聞かれた同コーチは「(競歩の五輪)コースのレイアウトは、直線1㌔と決まっているので、マラソンのような大きな設定変更はない」とした上で「選手、競技運営の関係者、観客にも負担のない、日陰のあるコース設定をして欲しいと思う。これから選ばれる選手のためにも、強化の方向性を確認しながらしっかり準備をしたい」と、たとえ不満を口にしても全くおかしくはない状況下で、コース設定に観客への配慮を加えた。

 42.195㌔を新たに設定し直さなくてはならないマラソンと比較し、競歩は1周1㌔の周回コースを利用するレイアウトの規則は決まっている。東京では、皇居外苑内堀のコースで男子50㌔(8月8日予定)、20㌔(男子7月31日、女子8月7日予定)が実施されるため、マラソン以上に日陰がないコース設定での直射日光にどう対策するかをひとつのテーマにしてきた。

 究極の暑さ対策といえるのは、皮肉にも今回の移転の発端となってしまった酷暑でのドーハ世界陸上を、あえて東京五輪の選考会に指定した戦略である。50㌔では鈴木雄介(富士通)、20㌔では山西利和(愛知製鋼)と、日本の競歩で初めて金メダルを獲得、東京五輪代表に内定した。五輪選考レースの価値は、よく言われる当日の暑さ対策だけの成果ではなく、水面下で長い期間続ける暑熱対策の成果も問われる点にある。ドーハに向けて夏場の厳しいトレーニングを積まなくてならず、そのスケジュールをどう組んで、疲労を蓄積しないためにどんなコンディショニングをするかに取り組む必要がある。

 さらにその過程で、気温、湿度がどんな状況で、体温、心拍数、疲労を測定する血中の乳酸値がどれくらい上昇するかを測定し、

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