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『おっさんずラブ』はおじさんを捨てた

勝負は春田と牧を超えるカップルを作れるか否か

杉浦由美子 ノンフィクションライター

 2018年、話題になったドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)の新作『おっさんずラブ-in the sky-』が放送開始となった。

 続編ではなく、舞台を航空会社に移したパラレルワールドになっている。主人公は田中圭が演じる春田創一、ヒロイン役は吉田鋼太郎演じる黒澤武蔵。それ以外はすべてキャストも一新した。前作同様に凡庸な30代の男、春田が複数の男女から求愛されるという恋愛ドラマだ。続編ではないから、話は一から始まる。同じことを舞台を変えて繰り返しているという指摘もあるが、それは違う。前作とは全く異なる構造なのだ。

拡大パイロット役で主演の吉田鋼太郎

コアな女性ファンたちはお金を落とす

 前作『おっさんずラブ』は平均視聴率3.99%とパッとしなかった。しかし、熱狂的なファンが誕生した。このファンたちはOL民と呼ばれている。このOL民たちに向けて発売した関連グッズが売れた。DVDは2万枚も売れ、単行本も重版し、そして来年の1月には東京で『おっさんずラブコンサート』が行われる。薄利多売ではなく、狭く濃いターゲットに向けて商品を供給していくビジネスモデルを確立した。

 映画『おっさんずラブ~LOVE or DEAD』はそれを意識して、徹底してファンムービーとして創られた。ドラマファン以外が見てもピンと来ないが、ファンが見たらこの上なく楽しい。そういう映画になった。結果、興行収入25億を超えるヒット作になった。この成功を踏まえて、OL民にターゲットを絞ってコンテンツを作ることを、続編のドラマでもやっているのだ。

戸次重幸か、千葉雄大か。それとも?

 映画はファンムービーとして成功した。しかし、ドラマ『おっさんずラブ-in the sky-』はどうなのだろうか。

 第1話からBL的なシーンが描かれる。俳優同士がいちゃつく様子は女目線だと楽しい。私も第1話は手ばなしに楽しんだが、2話以降は首をかしげる内容になってきた。前作は不動産販売店が舞台だった。いろんな客がきて、騒動が起きる。それを解決する展開の中で、主人公を巡る恋愛が描かれる。今回もこの作りなのだが、職場で起きる騒動がうまく描かれてないのだ。

 1回目はドタキャンを繰り返す客に春田が振り回されるというものだった。ところが、2回目は千葉雄大演じるパイロット、成瀬竜に関するパワハラ疑惑が取り上げられる。成瀬に恨みがある女がネットに拡散して騒ぎになっているというのだが、一介の若いパイロットのネガティブな情報はそうそう簡単に拡散されるのだろうか。

 コンビニのバイトがアイスのケースに入った様子をアップして、それが拡散されるのは、絵的に面白くて注目されるからだ。しかし、無名のパイロットがパワハラしたという情報はネットユーザーの関心をひかないだろう。また、若手パイロットはパワハラができるほど権力を持っているのだろうか。ようは職場で起きる事件の描き方が雑なのだ。パワハラを取り上げるならもっと緻密に描く必要があるが、それはお仕事ドラマならともかく、「おっさんずラブ」では難しいだろう。なぜなら、パワハラ問題をしっかり描くと真面目なお仕事ドラマになってしまい、ラブコメディにならないからだ。

 前作のように、毎回ゲスト出演者が客として登場し、なにかしらの騒動を起こす。それが一番面白く作れるはずだ。しかし、このドラマは飛行機機内を映さないから、搭乗客を描くのは難しい。

 なぜ、パラレルワールドにしたのか。それは前作のメインキャストであった林遣都が降板したからと推測できよう。前作の後半で、春田(田中圭)が牧(林遣都)と別れて、部長と同棲するというくだりがあった。この時、ネットは大炎上し、『おっさんずラブ』というキーワードがツイッターの世界トレンドランキング1位を獲得した。春田と牧のカップルにファンは感情移入していたからだ。その片割れである牧がいなくなっては、もう前作と同じ設定ではドラマは作れない。そこでまったく違う設定というアイディアが出てきたように思える。

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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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