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映画「おっさんずラブ」のヒットと〝安室の女〟

リピートに「やりがい」を感じるコアな女性ファンたち

杉浦由美子 ノンフィクションライター

OL民にターゲットを絞って大ヒット

 前回記事(「『おっさんずラブ』はおじさんを捨てた」)、放送中のドラマ『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日系)が、ファーストシーズンで誕生したOL民と呼ばれるコアなファンに向けたものになっていると言及した。OL民以外は切り捨てられた形になり、私も疎外感を持っている。

 さて、なぜ、『おっさんずラブ』はOL民以外を相手にしなくなったのか。それはOL民にターゲットを絞って作った映画がヒットしたからからだ。2018年に放送されたドラマ『おっさんずラブ』は話題になったが、平均視聴率は3.99%である。なぜ、その数字のドラマの映画が興行収入25億のヒット作になったのか考えてみたい。

拡大ドラマ『おっさんずラブ -in the sky-』(テレビ朝日系)

 『おっさんずラブ』が映画化すると聞いて、私は「そんなのヒットするのかな」と思った。カップルで見に行くデートムービーにならないし、家族揃って見に行くファミリー映画でもないからだ。

 それに対して、知人から「コアなファンがリピートするから大丈夫ですよ」と指摘されたがその通りになった。今年8月に公開した『おっさんずラブ』はファンムービーに徹した作りで、ファン以外が見てもあまり楽しめないが、OL民にとってはたまらないという内容にしている。結果、OL民たちが何度も映画館に通い、この映画はヒット作となった。10月21日のテレビ朝日の社長定例会見では、興行収入が25億円を突破したと発表された。

 興行収入25億。これがどのぐらいの数字か、比較対象をあげて説明しよう。

 2018年に公開された『祈りの幕が下りる時』という映画作品がある。2010年に放送されたドラマ『新参者』(TBS系)と同じく、東野圭吾の加賀恭一郎シリーズの映画化だ。加賀を演じるのはドラマ同様阿部寛だ。製作委員会にはTBSも参加しており、『新参者』の映画化といってもいい。『新参者』はゴールデンタイムに放送されて、平均視聴率15.2%とヒットドラマであり、原作は近年の東野圭吾作品の中でも傑作と評され、2013年の週刊文春ミステリーベスト10では2位にランクインしたベストセラーだ。映画も松嶋菜々子が暗い過去を持つ女を見事に演じ、素晴らしいクオリティだった。松本清張の『砂の器』にも通じるオーソドックスなストーリーで、カップルで見ても、家族で見てもいいウェルメイドな映画だ。この映画もヒットしたとされるが興行収入約15.9億である。

 ドラマの平均視聴率3.99%の深夜ドラマ『おっさんずラブ』の映画の方が興行収入は上にくる。映画を見た人の頭数は『祈りの幕が下りる時』が絶対に多いはずだ。しかし、この映画をリピートした客はそうは多くないはずだ。私もいい映画だと思ったが1回しか見ていない。ところが『おっさんずラブ』はOL民が何回もリピートしているのだ。

 お笑いコンビおかずクラブのオカリナは、おっさんずラブの熱心なファンとして知られる。その彼女は興行収入をあげるために、映画館に芸人仲間を連れて通い詰めた。上演中、多くの芸人たちがオカリナとおっさんずラブを見に行ったことを話していた。ある芸人がオカリナに今日で何回目なのかと聞くと「31回目」と返ってきたそうだ。また、後輩たちを連れては映画代を出してあげていたそうだ。OL民は自分が応援する映画の興行収入を伸ばすために、リピートするという行動をする。興行収入が大きくなり、ヒットさせることにやりがいを見いだしているからだ。

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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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