災害多発の中、「電柱大国」日本がかかえる大きなリスク
2019年12月01日
もうそろそろ本腰を入れて取り組むべきだ。
電柱を撤去し、電線を地中に埋める「無電柱化問題」である。
ずいぶん前から、先進国ワーストワンの汚名を返上する必要性が指摘されながら、遅々としてすすまない。「たかが景観のために大枚をはたくなんてもったいない」「電線のある風景も悪くはないのでは」。そんな反論や冷めた見解を返されたことがある。
だが、のんびりスルーしている場合ではない。千葉県では今年、台風で約2千本の電柱が倒れ、長期間、大規模な停電が発生。冷房が使えず、熱中症による死者まで出た。おおげさではなく、恐れていたことが現実に起き始めている。
国と自治体、電力会社を本気にさせるため、こうすれば電柱大国から脱却できるという秘策を考えた。
なぜ電柱がなくならないか。それは電柱の方が電線を地中化するより安いからだ。
地中化なら1キロあたり約5億円かかり、その3分の1が事業者の負担となる。しかし、電柱だと10分の1で済む。収益を上げることが企業の使命である以上、当然、電柱を選択する。
電力会社に本腰を入れさせるには、電柱の方が高くつく、という状況を作り出すことだ。
そのためにどうすべきか。
今年3月、無電柱化を考える国土交通省の有識者会議で、委員の松原隆一郎・放送大学教授は、事業者が道路管理者に支払っている電柱の占用料、つまり地代をうんと高くする方法を提案した。
「占用料は電柱1本につき最高で月約200円ともいうが、これはいくらなんでも安すぎる。ましてや電柱に広告がぶら下がったりすると、むしろ電柱が立っていることで黒字になってしまう。電柱はあること自体が迷惑なのだから、支払う料金は単なる土地代ではなく、社会への迷惑料を加えて考えるべきだ」
その上で、長期的に占用料を上げていくスキームをつくることと、短期的には場所を設定して電柱の建設を規制する。この二正面での推進こそ現実的だ、という。
電力会社にショックを与えて発想を転換させる促進策として、検討に値するアイデアではないか。
そのためには、まず国と自治体が、占用料が適正な額なのか、見直すきっかけを作るべきだろう。迷惑料と考えて50倍にすべきだ、と松原氏は言うが、少なくとも年間3000円弱では、庶民感覚からしても安すぎる。
占用料を高くすれば電気代に跳ね返るだけ、という意見もあるだろう。
だが、台風15号による集中的な倒壊などで、東京電力が特別損失として計上した額は118億円にのぼる。これ以外に、病院や役所、企業、各家庭がこうむった利用者側の被害が膨大にある。今回は強風が原因で起きたことを考えると、地中化していれば免れた損害である。
占用料を上げれば、電力会社は埋設にかかるコストを下げようと、技術革新をせざるを得ない。そうなれば、無電柱化が自然に加速する理想的な道が開ける。
昨今の地球温暖化で、災害の激甚化は避けられない。台風15号の千葉での最大瞬間風速は57.5メートルだった。今後は風速67メートル以上のスーパー台風が来るという予測もある。
常識で考えて地中化は危機管理上、電力会社にとって不可避なのである。
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