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今度こそ、学校は変わることができるか?

主体的で自立した教職員が、子どもにとって最大の教育環境だ

住田昌治 横浜市立日枝小学校校長

今度こそ、学校は変わるのだろうか?

 今度こそというのは、少し皮肉めいた言い方かもしれない。

 今回の教育改革は明治以来の教育を変える大きな改革だと言われている。これまでも、何度も教育改革が行われてきたが、今までとは違うのだということを文科省の方が言われるのを聞いたことがある。では、今まではどうだったのだろう。

 私は、1980年に新採用教員として横浜市で勤め始めた。学習指導要領が実施された年なんだと思う。無責任なようだが、新採用教員にとって教科書も初めて見るわけなので学習指導要領を見る余裕もなく、その考え方もよくわかってなかった。毎日、教科書を使って教えることに必死だった。その後の、学習指導要領の改訂では、「生活科」「ゆとりの時間」「総合的な学習の時間」という大きな変化には対応してきたが、根底に流れている教育理念を理解しているとは言い難い。

 よく「教育改革は学校の門まで、よくても校長室まで」と揶揄されたものだ。目に見えることは対応できるが、根本的なところは変わらずに来たのが現場かもしれない。すべての人がそうではないだろうが、教科書を見て、初めて今までとは変わってきたことに気づく教員も多いのだと思う。

 学習指導要領を読む余裕がないというのも理由としてはあるが、習ってきた通りに教えるという再現教育を続けているという問題もある。今までやってきたことややり方をなぜ変えなければならないのか? 教育改革は誰かが言っているからやらなければならないという考えでは、今回も今までと変わらないだろう。教員自身が当事者意識を持たない限り、教育改革は学校の門で止まり、学校も今までと変わらず、旧態依然とした前例踏襲型の組織として続くのだと思う。

「0から学校を創り直す」わくわくワークショップで体験

「円たくんワークショップ」ではちゃぶ台のような白い円形のボードに参加者が次々と書き込んでいく(以下、写真は筆者撮影)
 横浜市金沢区にある野島青少年研修センターで行われた横浜市学校レクセミナー(YSRS)で。円形の両面ホワイトボードを使った「円たくんワークショップ」をやってきた。

 当日は、オープニング後、全国学習塾協会会長の安藤大作さん、ダイヤモンド社編集部の小島健志さんという豪華講師の先進的で刺激的な講演を聞いた。その後、みんなで話し合ったり、講師とやり取りしたりして楽しくセミナーのスタートを切った。その後、私がファシリテーターとなり、システム思考のアクティビティで打ち解けた後、日をまたいで約8時間、学校づくりワークショップを行った。

 これは、本校で年度始めにやっている4連続ワークショップ(学校教育目標・年間計画・授業づくり・校内研究)を体験してもらって、みんなで創る学校を実感してもらおうとしたものだ。みんなで創る学校とはどんな学校なのか、そのスタートを体験的に学ぶワークショップだ。

 今回の研修の責任者と事前打ち合わせをしていく中で、現場とかけ離れた話し合いをするより、実際に職員室で行われることを、架空ではあるが、その学校の教職員になりきってやってみたらどうかというアイデアを思い付いた。思い付きから生まれたワークショップなので、私自身が不安ではあったが、どんな学校が生み出されるかワクワクして当日を迎えた。

横浜市学校レクセミナー(YSRS)での「円たくんワークショップ」
 この横浜市学校レクセミナーは、36年の長きにわたって続いていて、年間に8回の研修会を開いている。「楽しく生き生きとした学校づくり」を目指して活動を続けている。人が喜びを感じるのは、①主体性を発揮できる②創造性が発揮できる③自己発展的である④社会的承認が得られる、この4つが満たされた時だとしている。そして、学校のあらゆる場面でこの4つを満足させられるような活動をつくっていくことを、「学校レクリエーション」と定義している。

 つまり、学校での生きる喜びを目指しているセミナーだ。また、この4つが相互に関連しながら次々と生まれていくことを「素敵循環」と名付け、個人の中にも、クラスや学年の中にも、この「素敵循環」の渦をたくさん作っていこうと考えているそうだ。

 そんなセミナーなので、「野島未来学校」と命名し、「生き生き」を学校教育目標にして新たな学校づくりワークショップを行った。初代校長を私が務め、参加者が教職員となってどんな学校にしようかと話し合った。まず「生き生き」した姿とは、どんな姿をイメージするのかどんどん考えを出し合い、円形ボードの「円たくん」に書いていった。そして、いくつかのまとまりに整理して、お互いに共有し合った。グループ毎に発表することもあるが、私は全体をフラフラと見て回りながらアドバイスを書き込んでいく「ふらっとタイム」が好きなので、ここでも体験してもらった。

 次に、その姿を実現するためにどんな教育活動(授業、行事、生活など具体的な活動)が必要か、それを支える教職員集団のあり方はどうするか、働き方はどうするか等々、メンバーをかえたり、場所をかえたりしながら時間を忘れてワークショップを続けた。

 参加者も部活が終わってから参加したり、一日目だけで帰ったり、二日目だけ参加したり、出入り自由な柔らかな感じの時間だった。みんな「野島未来学校」を自分たちで創っていくんだという意欲を持続させ、熱心に語り合い、アイデアを出し合っていた。一日目のワークショップが終わってからのオフタイムでは、実際に現在勤めている学校で変革を起こすために必要なことは何か、どのようなアプローチで進めていけばよいのか熱く話し合った。

  現実は厳しく、学校を変えていくのは並大抵のことではできない。それも、一教員にできることは少ないだろうし、限定的でもあることが予想できる。そういう意味でも、このセミナーから学ぶことが、どんなに小さなことでも実際に現場で実現していくことが重要である。

 参加者は、新採用から再任用まで幅広い年齢層、また小中高と校種も様々で多様なアイデアや意見が出された。言い方を変えると、今までの「学校」を創り直す作業をしていたと言ってもいいかもしれない。旧態依然とした、前例主義の学校を、0から創るとすれば、どんなことができるだろうかと言うことだ。学校に集う子どもも大人もみんな「楽しく生き生きできる学校」ができるのならば、持続可能な社会も実現することができるだろう。

 すべての人が、誰一人取り残されることなく生き生き、楽しく、幸せに過ごせるのならば未来は明るい。今の社会がそうなっていないので、その縮図である学校も明るく楽しい場所とは言い難い。教育改革の真っただ中、教育を変えるには、学校の在り方そのものを変えていかなければならない。

「やりたいことができる」学校にするためには

横浜市学校レクセミナー(YSRS)。「円たくんワークショップ」で対話も進む
 8時間にわたって行ったワークショップの最後に、各自のアクションプランを発表し、その実現状況を随時SNSで共有して、学校変革のうねりを起こすことを確認した。「現場から変える」と現場の教員が動き始めて、学校変革に繋げていく実践は画期的なものになる予感がする。カリスマ校長がトップダウンで学校改革をしている例はあるが、教職員が主体的に動き出すことで、どこの学校でもできる可能性が感じられると思う。現場から立ち上がり36年も持続いている「横浜市学校レクセミナー」に敬意を表したいと思う。まさに持続可能な運営がなされているのだと思う。

 このセミナーで心配だったこともある。「やりたいことができる学校」という話をしているとき、実際にはやらなければならないことが多すぎて、やりたいことができないと言っている若手教員がいたことだ。だから、業務改善をして時間を生み出し、やりたいことをやれるようにすることが必要だ。

横浜市学校レクセミナー(YSRS)。ふらっとタイムは共有時間
 やりたいことがあるのにできないのはストレスになる。まず、やりたいことを優先して、やってしまってもいいのかもしれない。「やっちゃいなよ!」と後押ししてくれる先輩がいると
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