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人権派弁護士がGPS装置つき保釈を提唱する理由

警察官・検察官・拘置職員による高圧的支配体制よりよほど人道的な機械による監視

五十嵐二葉 弁護士

保釈をめぐり腰が定まらないメディア

 神奈川事件の「遁刑者」が逮捕された翌々日の6月25日、読売新聞社説は「保釈を認めた裁判所の判断にも、議論の余地が残る」「不必要な身柄拘束を避けるのは当然だが、裁判所は逃亡や証拠隠滅の恐れをきちんと見極め、保釈の是非を判断すべきだ」と書いた。

 同紙は8月7日付の事件の検証記事でも、「最高検や横浜地裁の検証は、あくまでも検察の対応を対象にしており、保釈のあり方や制度の見直しにはふみこまなかった。ただ、最高検の検証結果が『必要に応じて保釈決定に対して抗告するなどの対応を行うべきだ』とあえて記載したことは、裁判所の運用に対する不満もにじむ」とし、11月17日付社説でも「全国の地裁に保釈を認められた被告は昨年1万4814人で、2008年より約5000人増える一方、保釈を取り消される被告も10年前の5倍近い」としている。

 保釈増は1.5倍なのに対して、その取り消しが5倍なら、保釈の運用は狭まったとする評価もできるのだが……。

 冒頭にあげた確定者の逃亡を許してしまった事件は、その事務を担った地検職員と補助を依頼された警察官の失態だったことは、最高検と横浜地検の神奈川事件の検証や、他の事件でもメディアの論評で一致している。判決前に裁判所が保釈していても、検察や警察が「収容」の仕事9カ月も放置したりせず、きちんとしていれば「遁刑」は起こらない。「遁刑」を保釈した裁判官のせいにするのは、「外に出なかったら交通事故にあわなかったのに」という言い方と同じだ。

 東京新聞は前記社説で「保釈率と遁刑者数との因果関係はうかがわれない」と付け加え、11月12日には「『保釈率高いから増えている』は間違い」と見出しする記事を載せたが、一方で「最高裁によると全国の裁判所が保釈を認めた割合は〇九年の16.3%から一七年には32.7%に増えた」とする6月24日付では、「高まる保釈率運用に限界」という見出しをつけた。

 朝日新聞も6月25日付の社説で、「気になるのは男が保釈された事実をとらえて、保釈の制度や運用全般を問題視する言説が、一部のメディアなどに広がっていることだ」としているが、その朝日も7月4日付では「逃げない前提保釈の穴」という見出しの記事を掲載しているように、同じメディアでも方向は揃っていない。

 毎日新聞は6月27日付の「記者の目」で、「身柄の拘束には慎重になる傾向」などを指摘して、「人権と事件解明の両立を」と見出しをつけた。それなら異論のある者はいないだろうが、具体的な制度設計を示しているわけではない。

裁判所が「保釈」をためらうリスク

 そうしたなか、「遁刑」と保釈ばかりではなく、勾留そのものについての批判的報道も目立つようになった。

 例えば、毎日新聞8月16日付では、「勾留却下の男 海外逃亡」として、大麻取締法違反で逮捕された外国籍の男性について、東京地裁が勾留請求を却下し東京地検が「逃亡の恐れがある」として不服を申し立てたが、これを地裁は認めず、男性が釈放された後に海外に逃亡した、と報道。「裁判所は拘束に慎重な姿勢を強めており、被告の保釈が増えているのと同様、容疑者の勾留請求却下も増えている」「保釈の条件となる保釈保証金の納付は容疑者には課されず、逃亡を防ぐ法的な仕組みはない」などと指摘している。

 また、朝日新聞10月2日付の「勾留停止中に逃走」という記事では、恐喝未遂事件で8月に懲役一年半の実刑判決を受けて控訴中の被告について、東京高検が「勾留の執行停止中に逃走した」と発表したと記載。「裁判所が病院での診察を理由に3時間の執行停止を認め、立川拘置所を出たが、東京地検立川支部に出頭しなかった」として、「検察側は逃走の恐れが強いなど反対したが、東京高裁が却下した」と指摘している。

 これらは凶悪犯の逃走ではなく、一連の「遁刑」と保釈批判報道がなければ、これまで報道されることはなかったのではないかと思える。そもそも、特別なことがなければ記者が独自に把握することはない小さい事件で、警察なり、検察なりの発表がなければ報道されなかった記事だろう。

 こうして見てくると、「保釈」一般について、明らかに風当たりが強くなっていると感じる。「そうした空気を恐れて保釈をためらう」ということは、日本の裁判所の体質から十分懸念されることだ。

拡大Positiffy/shutterstock.com

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筆者

五十嵐二葉

五十嵐二葉(いがらし・ふたば) 弁護士

1932年生まれ。68年弁護士登録。山梨学院大学大学院法務研究科専任教授などを歴任。著書に『刑事訴訟法を実践する』など。

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