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原宿の路上で「反天皇制」を叫んだ若者たち

映画『秋の嵐 Harajuku im herbst』、30年ぶりに作品化

瀬木 理 「情況」編集委員

「不当逮捕」を証明した記録映像

 映画の冒頭近くで原宿駅前でマイクをもった〈秋の嵐〉のメンバーが「天皇を守るために、オレたちの表現の自由が奪われるなんて許せない!」と叫ぶシーンがある。当時も現在も(あるいは現在の方がさらに)、天皇について自由に論評し、表現することが可能なわけではない。またそれだけでなく、昭和天皇の病状が悪化すると、「歌舞音曲は控えよう」という、正体のよくわからない自粛ブームが世を覆うようになっていた。歌ったり踊ったり笑ったりすること自体が、「時節柄」憚られるようなムードが、確かにあったのだ。

拡大前週1月8日の逮捕に対する抗議ライブ。この直後、演奏を控えていたバンドのメンバーらが逮捕される。後ろに見える横断幕を勝手に貼り付けたという「軽犯罪法違反」だった=1989年1月15日、東京・代々木公園

 「街頭にデカい音をもって出る、というムーブメントはそれまでなかったから、〈秋の嵐〉はその先駆けではあったよね。今のサウンドデモにつながっているのかもしれない」

 〈秋の嵐〉の創立メンバーの一人でロックバンド「テーゼ」を率いたシンガー高橋よしあきさん(1963年生まれ)は、そう振り返っている。高橋さんは学生時代は新左翼党派の活動家でもあったが、〈秋の嵐〉では「音楽という表現を担う者としての闘いと、その可能性」を見いだそうとしていた。少なくとも当時の自粛ムードの中では「街頭でデカい音を出す」という表現自体にプロテストの要素が含まれていた。

 高橋さんは1989年1月15日、ホコ天の路上で逮捕されている。容疑は「軽犯罪法違反」。路上ライブを行った代々木公園内の歩道橋の橋脚に「さよならヒロヒト」と書かれた横断幕を粘着テープで貼り付けた、というのが「犯罪」とされた(のち起訴猶予処分)。このときの模様は、今回の映画の中でも克明に記録されている。

 サングラスや帽子で顔を隠した私服刑事や制服警官が何人も高橋さんの体を押さえつけて引きずり、警察車両へ乗せられることを拒もうとする高橋さんの頭を私服刑事が強引につかんでねじこんでいる。〈秋の嵐〉のメンバーだけでなく、居合わせたほかのバンドや見物客など数百人がこの逮捕劇を取り囲み、ホコ天は騒然となる。

拡大軽犯罪法違反容疑で逮捕され、ホコ天の路上を引きずられる高橋さん=1989年1月15日

 〈秋の嵐〉に初めての逮捕者が出たのは、その前週、1989年1月8日。昭和天皇が亡くなった翌日だった。代々木公園内から歩道上を歩いて明治神宮に向かい、原宿駅前で天皇制に反対するコールをあげようとしたところに警官隊がとびかかり、東京都公安条例違反、公務執行妨害などで5人が逮捕される。この場面も映画に記録されている。

 トランジスタメガホンをもったメンバーに向かって複数の警官が、突然後ろからタックル。その直前には、制服警官と私服刑事が「段取り」を確認するようにささやき合うシーンも映っていた。

 高橋さんを含むこれらの被逮捕者は、のちに不当逮捕であったという国家賠償請求訴訟を起こし、1997年11月、原告の全面勝訴が確定している。判決は「逮捕は違法」とまで言い切り、警察の強引な手法が断罪された。裁判の中では被告の東京都は「逮捕は適正に執行された」と主張、証人に立った警察官も詳細に「適正な執行」の経過を証言していたのだが、証拠として提出されたビデオが採用されそれらがことごとく否定されたのである。さらに別の日には私服警官が〈秋の嵐〉のメンバーに向かって後ろから膝蹴りする場面も撮影されており、これも国賠訴訟で警察の「違法」が認定されている。

 「違法逮捕」の決定的場面を撮影されていた警察は、やや奇妙にも思えるが、撮影者に対して

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筆者

瀬木 理

瀬木 理 「情況」編集委員

1965年生まれ。「情況」編集委員。