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本日、『宮本から君へ』助成金不交付を提訴した!

ピエール瀧の出演場面カットを拒んだ私たちへの仕打ちを決して許さない

河村光庸 映画プロデューサー

ピエール瀧の出演場面をカットするわけにはいかない

 私どもは12月20日、映画『宮本から君へ』の助成金に関する行政処分の取消しを求める提訴を致しました。

 映画『宮本から君へ』エグゼクティブプロデューサーとして、本作の制作会社である株式会社スターサンズ代表取締役として、提訴に至った経緯を説明したいと思います。

 2019年3月29日、助成金「交付内定」の通知がスターサンズ宛に届きました。

拡大保釈されたピエール瀧被告=2019年4月4日、東京都江東区
 本作に出演していたピエール瀧氏(以下「瀧氏」といいます)はそれより2週間余り前の3月12日に逮捕され、4月2日に起訴され、4月4日に釈放、6月18日には有罪判決が言い渡されました。

 4月24日に芸文振による本編の完成確認の為の試写を実施したところ、試写後、本編を観た芸文振の担当者数名から、本編にある瀧氏の出演シーンの編集ないしは再撮の予定はあるか否か(要するに、瀧氏の出演シーンをカットして欲しい、との趣旨)との質問がありましたが、再編集、再撮の意見がないことを伝えました。

 後にそれ自体が問題となる「交付要綱」に、その時点では手続き上の不備を理由とする以外に「内定の取り消し」ができる明確な規定がなかったため、このような事実上の打診のようなものがあったのかもしれません。

国が薬物使用の容認するメッセージを発信!?

 6月28日、芸文振、文化庁の担当者4名から助成金不交付決定を口頭で告げられました。「宮本から君へ」は第三者委員会によって「優れた作品」として助成金交付に値すると評され、今でもその決定は尊重しているものの、麻薬取締法違反により有罪判決を受けた瀧氏が出演していることで、「国が薬物使用の容認するようなメッセージを発信することになりかねない」という理由で助成金の不交付決定に至ったということでした。

 4名の担当者には「内定を得ているのに、その理由では不交付とする根拠にはなり得ない。誰がどういう形で判断したのか。場合によっては“表現の自由”に対する重大な侵害になる」といった主旨のことを伝え、また、文化庁関連の助成金交付内定後の不交付決定は助成金制度が始まって以来、本作が初めてのケースであるなら、不交付とした理由を曖昧かつ不明確にせず、その経緯や理由の詳細を広く公にすることを上層部に伝えるよう要請しました。

 しかし未だ、それがなされていません。

 7月10日付で「不交付決定通知書」が正式文書として届きました。通知書には不交付決定理由として、その時まだ助成金交付要綱に明文化されていなかった「公益性の観点から適当ではないため」との一文がありました。

 朝日新聞を始め複数のメディアが、10月18日から19日にかけて、本作に対する助成金を交付しない決定がなされたこと、並びに、9月27日に「公益性の観点から不適当と認められる場合」に助成金交付の内定を取り消すことが出来るという「交付要綱」の改定がなされたことを報じました。

 以下に要点をまとめます。

拡大©2019「宮本から君へ」製作委員会

憲法を軽視し憲法を押しつぶす為政者たち

(1)私たちは本作に対する助成金不交付決定を告げられてから3ヶ月後の9月27日に助成金交付要綱の改定が行われたということを、報道を通して初めて知ることとなりました。つまり、本作はその時点で助成金交付要綱の規定がないのに、「公益性の観点」という曖昧な理由のみで助成金不交付決定がなされたのです。

 たとえ助成金交付要綱が、本作への助成金不交付決定通知書が発行された7月10日の時点で改定されていたとしても、そもそも交付か不交付かの判断にあたって「公益性の観点」というものを考慮することはできないはずですし、また、「公益性」の定義や、「誰が」それを決めるのか、全く不明確で極めて曖昧な要綱改定と言わざるを得ません。

(2)また助成を受けたい人に向けた「募集案内」の内容も同時に変更されました。

 助成対象団体や助成金対象活動に出演するキャスト、又はスタッフ等が犯罪などの重要な違法行為を行った場合には、「公益性の観点」から助成金の交付、内定や決定を取り消すことが出来る、とされています。その意味は、キャスト及びスタッフの中の「一人」が犯罪を起こすと、その罪と作品は全く関係がなくても、作品全体とそれに関わった全ての人々が、その犯罪の連帯責任をとり、助成金内定及び決定の取り消しを受けるということになるのです。

 また「犯罪などの重要な違法行為」とは何を指すのかも、曖昧で不明確と言わざるを得ません。

「i-新聞記者ドキュメント-」(2019年11月15日公開)試写会で、左から森達也監督、望月衣塑子記者、エグゼクティブ・プロデューサー河村光庸氏=東京都千代田区で2019年10月23日、臺宏士撮影

(3)不可解なことはまだあります。今、多くの国では、文化助成は公的価値があり、公金が使われる為、第三者である専門家(文化芸術分野)に助成すべき対象の選別を委ねています。政治家や官僚が文化芸術の評価とは無関係な理由で助成対象の選別に介入する危険を防ぐためです。また助成金は、公金であるが故に、その決定から運用は政治家やその指揮監督を受ける官僚から独立した組織が行わなければならず、その決定プロセスは公にすべきことなのです。

 しかし、「宮本から君へ」への助成金取り消しの決定プロセスにはどうやら、第三者、有識者が加わらずにその「議事録」も残っておらず、意思決定が文化庁と芸文振の独自の判断でなされたと聞き及んでいます。

 追加変更された「交付要綱」(交付内定の取消の規定)や助成金の「募集案内」(犯罪の連帯責任を負わせるような規定)の改定は、日本の文化芸術活動にとって由々しき事態を引き起こす内容だと考えます。

(4)また、本件の不交付決定は、表現内容への直接的介入であることを考えなければなりません。芸文振は「有罪が確定した者」が出演していることを理由として助成金を取り消したことは、「キャスティングという表現内容」に直接手を下した、それは結果として「表現の自由」を侵害したと言わざるを得ないでしょう。

(5)「公益性」とは何なのか。

 その定義が明確にされていないということは、恣意的で一方的、あるいは忖度や同調圧力による判断で、助成金が不交付とされる可能性が高く、「映画製作全体」に対する萎縮、自粛に繋がることは間違いありません。これもまた結果的には憲法が保障する「表現の自由」に対する不当な制約になり得ることは明確です。私たちは、このような忖度や同調圧力による判断、そして「萎縮の連鎖」を止めなければなりません。

 10月30日、改めて文化庁は芸文振の本作への助成金不交付は適切であるとの見解を表明し、官僚組織である文化庁と独立組織であるべき芸文振が一体であることを示しました。一体となった為政者が「表現の自由」への介入を宣言したといえるでしょう。

(6)それと同時に為政者は「公」より「国家」、「公益」より「国益」を重視するという異常な見解を示したとも言えます。「『国』が薬物使用を容認するようなメッセージを発信することになりかねない」とか、「『国』の補助金(原資は税金です)を財源とした助成金を交付することは公益性(国益性では?)の観点から適当ではない」という発言に表れているように、為政者はついに「文化芸術の分野」に対してまで「公=国民」より、「国=国家」を優先させる「国家主義」あるいは「全体主義」をかかげてきたと思わざるを得ません。

 今の為政者は、「公=国民」の代理として為政者を監視し戒める役割の「憲法」を軽視し、関連法の趣旨を都合よく解釈し、「憲法」を押しつぶすことを考えていることが伺えます。

憲法21条や憲法25条の基本的人権を不当に侵害

 私たちは、憲法で保障されている基本的人権である「表現の自由(憲法第21条)」や「文化的な生活を営む権利(憲法第25条)」を不当に侵害するおそれのある、文化庁及び芸文振による「本作への助成金不交付決定」「助成金交付要綱の改定」を絶対に認めるわけにはいかず、12月20日に提訴を致しました。

 なお、弁護団は、文化芸術活動の関連法を専門とする四宮隆史弁護士を弁護団長とし、一票の格差訴訟や安保法制訴訟などの憲法訴訟を多く手がけ、憲法の専門家として著名な伊藤真弁護士、行政法の研究者であり、行政訴訟を数多く担当する平祐介弁護士らで構成します。