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元事務次官熊沢被告はなぜここまで擁護されるのか

エリート官僚の殺人犯は、徹底して弱者への想像力がなかった

杉浦由美子 ノンフィクションライター

農水省元次官熊沢被告と自殺した2人の若い女性

 農水省の元事務次官、熊沢英昭被告が今年6月に自宅で長男を殺害した事件の一審判決が出た。執行猶予なしの6年の実刑判決だ。息子は引きこもり状態であり、家庭内暴力もあったという。

 エリート家庭で子供が家庭内暴力を起こしたり、引きこもったりというのは実によくある話で、私は一記者としてそういうケースを何度も取材してきた。そして、それらは親の名誉を守るために、徹底して隠蔽されるが、今回は父親が息子を殺すという刑事事件に発展したことで、熊沢家の事情は世に晒された。

拡大逮捕され送検された時の熊沢英昭被告=2019年6月3日

 この熊沢英昭被告の名前は、以前にもメディアで大々的に取り上げられた。2001年に日本でBSE(牛海線状脳症。狂牛病とも呼ばれた)に感染した牛が発見された時だ。

 1996年にイギリス政府がBSEと人間の脳疾患との関連性を認めた時に、熊沢被告は畜産局長として、この問題に対処すべき立場だった。しかし、熊沢被告は「日本では感染はありえない」と主張し、適切な対応をせず、結果、BSE感染問題で日本は大混乱となった。熊沢被告は実質的な引責辞任をし、そして、このBSE問題の際には、保健所食肉検査係であった獣医師の女性が自殺をしている。

 この女性獣医師は30歳前後で亡くなったが、熊沢被告の娘もそのぐらいの年齢で自殺をしていることが裁判で判明した。農水省にて、熊沢被告が深く関わった問題で獣医師が死に、家庭では娘が自殺している。ようは公でも私でも30歳前後の女性が被告に関連して死んでいる。

 30歳前後というのは、女性にとって最も良い時期だ。若く美しいし体力もある。そして、経験も積んでいるから、仕事でもプライベートでも充実した生活が送れる頃合いだ。出産や子育てを経験する時期でもある。その時期に、自ら命を絶った2人の女性には、相当に大きな絶望とプレッシャーがあったのだろう。

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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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