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上田氏再任せず、官邸の判断が影響したNHK会長

過半数に達しなかった上田会長、残る候補の前田氏を選出、批判を許さない官邸

川本裕司 朝日新聞記者

次期会長に決まり記者会見する前田晃伸氏=2019年12月10日、東京都渋谷区

 上田良一会長(70)は過半数の支持を得られず、もう1人の候補者だった前田晃伸氏(74)に――。来年1月24日に任期を迎えるNHK会長の次期会長が12月9日の経営委員会で決まった。最大の課題だった常時同時配信について5月に改正放送法の成立で道筋をつけた上田会長は当初、再任が有力視されていたが、その後は日本郵政グループへの謝罪問題などにより経営委内部でマイナスの評価をする発言が出ていた。とはいえ決定的な失点とはいえず、官邸の判断で再任されなかった、という見方が根強い。

 経営委関係者によると、次期会長を選ぶ9日の委員会(12人)での会長候補は上田氏とみずほフィナンシャルグループ元会長の前田氏の2人だけだった。まず、上田氏の再任の是非を問う投票が無記名で行われた。この結果、上田氏の得票は過半数に達しなかった。放送法では経営委員会の9人以上による議決が必要とされるため、遠く及ばない得票だったといえる。次いで、残る前田氏についての投票があり、全会一致で選ばれた。

かんぽ生命報道問題で潮目が変わる

 1期目の上田氏について、今春時点では経営委の評価が高かった。突拍子もない失言が相次ぎ、3年前の次期会長選出で経営委からの支持が皆無だった籾井勝人前会長とは対照的だった。派手さはないが安定した手腕を見せていた上田氏について、「再選に野心をもっている」と見られるのは嫌がるのでは、という声もあがっていた。

 しかし、潮目が変わったのが「クローズアップ現代+」が取り上げたかんぽ生命問題をめぐり抗議してきた日本郵政グループへの謝罪が表面化した9月だった。経営委がガバナンスを強化するという名目で上田会長を厳重注意したのは昨年10月だったが、異例の措置についての報道が相次ぎ、国会でも審議された。

 このころから、経営委内部では上田氏について「よくやっている」という声の一方で、ガバナンスの問題点を指摘したり、「改革のスピードが遅い」というマイナス評価の感想を示したりする委員が目立ち始めた。次期会長選出の時点では、上田氏再任はすでに盤石とはいえなかった。

 ただ、支持が過半数に満たなかった結果について、ある経営委関係者は「根回しがあったのだろう。官邸の影響があったとしか考えられない」と指摘する。かつてのNHKには会長になった島桂次、川口幹夫、海老沢勝二氏らのように賛否はあるにせよ衆目の一致する生え抜きの実力者がいたが、最近は会長候補と目されるような幹部は存在しない。

政権に上田氏への不満

2012年度以来2度目となる受信料値下げを発表するNHKの上田良一会長(右)。 石原進経営委員長(左)は上田会長への厳重注意を主導した=2018年11月27日、 東京都渋谷区

 NHK内部からの昇格が考えられないなか、経済界出身の経営委員の多くが知っている前田氏が官邸のお墨つきを得て浮上した、と見られている。上田氏より年上で年明けには75歳となる前田氏を起用するのは、上田氏を代えたい意思の強さが感じられる。読売新聞(12月11日朝刊)は、首相に近い閣僚の発言として「首相は上田氏個人というよりも、今のNHKが(全体的に)駄目だと思っているのだろう」と紹介。毎日新聞(12月10日朝刊)は「首相官邸は『上田会長は野党に気を使いすぎだし、政権批判の番組へのグリップが弱い』と不満を持っていた」という関係者の言葉を掲載した。

 会長選びでカギを握るのは経営委員長だ。10日に退任した石原進委員長(JR九州相談役)の最後の仕事が前田氏選出だった。石原氏が経営委員になったのは

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