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職場の「SOGIハラ・アウティング」対策は必須

パワハラ防止指針で義務づけられるLGBT対応

増原裕子 LGBTコンサルタント、株式会社トロワ・クルール代表取締役

 「SOGIハラ(ソジハラ)」をご存じだろうか? 新しいハラスメントの言葉で、性的指向・性自認に関するハラスメントのことだ。いわゆる「ホモネタ」と言えばイメージがつくだろう。SOGIハラが今、法的にも、ビジネスマナー的にもアウトになってきている。

 忘年会・新年会シーズン。職場の飲み会で、こんな会話をまだよく耳にするかもしれない。

 上司「◯◯くんは、もう35になるのにまだ結婚していないのか?」
 部下「あ、はい。そうですね」
 上司「君は女っ気がないからな。仕事熱心なのはいいが、もしかしてソッチ系なんじゃないか? そういうのは個人の自由だから勝手にやってもらったらいいと思うが、オレは全然そういう趣味はないから、狙わないでくれよなぁ〜(笑)」 
 部下「・・・・・・」
(一同爆笑)

 こんな会話や場面は日常茶飯事という方は、注意が必要だ。

 「それ、SOGIハラですよ」と言われることがこれから増えてくるであろうからだ。ホモネタに代表されるような、性の多様性についてのいじりや嘲笑などは、これまでは鉄板の笑いがとれるネタだったり、会話の潤滑油として機能していたかもしれないが、まもなく2020年を迎えようとしている今、社会も、法制度も、人々の意識も変わりつつある。

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「パワハラ防止対策」の中にはSOGIハラ対策も

 セクハラという言葉が新語・流行語大賞に選ばれてから30年、セクハラは一般的に認知されるようになった。筆者も飲み会の席などで、自分に向けられていない場合でも、これは見すごしてはいけないというときには、「それってセクハラですよ」と指摘するようにしている。

 マタハラ(マタニティ・ハラスメント。妊娠・出産・子育てに関する嫌がらせ)もそうだが、新しいハラスメントの言葉や概念が生まれるときというのは、その課題をとりまく社会の状況に変化が起きていて、これまでの〝常識〟は時代の感覚とずれたものになっている、というサインなのだ。

 2019年5月に成立した「パワハラ防止法」にもとづいて、どんな言動がパワハラに当たるかについての国の指針が12月23日、厚労省の審議会で決まった。2020年6月から大企業に、2022年4月から中小企業に義務づけられるパワハラ防止対策の中に、SOGIハラ対策も盛り込まれているのがポイントだ。

 指針は企業や自治体等に、就業規則でパワハラを禁止して啓発し、相談窓口を設置することなどを求めている。すでに社会問題化しているいわゆるパワハラについてのくわしい説明は他の論稿にゆずるとして、ここでは、まだまだ一般的には知られていないSOGIハラなど、「性の多様性」に関する項目について解説したい。法律にもとづく職場でのパワハラ対策の中に、必ず入ってくるテーマとなったからだ。

SOGIハラとは何か?

 あらためて、SOGIハラとは何かについて説明する前に、多くの人がまだ耳慣れない「SOGI(ソジ)」という略語をおさえておこう。

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 SOGIは、下記にあるように、「性的指向」と「性自認」の英語の頭文字をとった言葉だ。

・性的指向(Sexual Orientation):好きになる相手の性別
・性自認(Gender Identity):自分の性別の認識

 LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなどの性的マイノリティの総称)という言葉との違いは、LGBTは特定の人たちを指すのに対して、SOGIは、同性愛・異性愛などにかかわらず、すべての人が持つ属性であるという点だ。

 「LGBT」と「SOGI」の言葉の使い分けは、たとえば「女性・男性」と「性別」の使い分けと同様に考えてよいだろう。SOGI(性的指向・性自認)におけるマイノリティがLGBT(性的マイノリティ)だ、と説明できる。

 SOGIハラは、2017年にLGBTコミュニティから生まれた言葉だ。「なくそう!SOGIハラ」実行委員会は、SOGIハラを下記のように定義している。

「好きになる人の性別(性的指向:Sexual Orientation)や自分がどの性別かという認識(性自認:Gender Identity)に関連して、差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力などの精神的・肉体的な嫌がらせを受けること。また、望まない性別での学校生活・職場での強制異動、採用拒否や解雇など、差別を受けて社会生活上の不利益を被ること。 それらの悲惨なハラスメント・出来事全般を表す言葉です。」

 冒頭に書いたようないわゆる「ホモネタ」は、典型的なSOGIハラだ。職場や飲み会でも頻繁に話題にのぼる、こうしたいじりやからかいは、今後はセクハラやパワハラと並んで企業の対策が義務化されることになった。

 うちの職場にはLGBTとカミングアウトしている人はいないから、関係ない――(だからSOGIハラの心配はない)。

 とっさにこう感じた人も多いのではないだろうか。しかし、偏見や差別が多い中で、周りにカミングアウトしているLGBTは少なく、とくに、職場でのカミングアウトが最もハードルが高い。ひとにぎりの人しか職場では明かしていないのが現状だ。電通ダイバーシティ・ラボが実施した「LGBT調査2018」によれば、LGBTのカミングアウトの実態について、「職場の同僚・仕事仲間」には4.5%、「職場の上司」にいたってはわずか2.6%しかしていない。

 もう一つ注意すべきなのが、SOGIハラの被害を受ける対象はLGBTだけとはかぎらないという点だ。冒頭の例で、ネタにされてしまった部下が実際にゲイであるかどうかにかかわらず、SOGIハラととらえられる可能性は十分にある。また、その場にいる他の社員の中に、カミングアウトしていないLGBTの当事者がいるかもしれない。

 SOGIハラ被害で苦しむのはLGBTであることが多いが、LGBTは職場ではそもそも見えづらい存在になっている。最近では、とくに若い世代の意識の変化により、カミングアウトもじわじわと増えていることから、社員の子どもなど、家族がLGBTという意味で、このテーマに当事者性がある人が増えていることも指摘しておこう。

 今回の法改正および指針を待たずとも、厚生労働省の「モデル就業規則」には、すでに下記のようにSOGIハラの禁止が2018年から含まれている。モデル就業規則に入っているということは、日本中の職場でSOGIハラをなくしていくことが新しいスタンダードに

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