苦難を乗り越え「元祖ワンチーム」で、王者・鹿島を完封
2020年01月10日
5万7597人が詰めかけた新しい国立競技場には、19年12月の竣工式やセレモニーイベントとは全く異なった空気に包まれていた。サッカー天皇杯が2014年元日以来6年ぶりに国立競技場に戻って来た歓喜、2020東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場の「こけら落とし」への興奮と、21冠目を狙う鹿島、初タイトルを獲得しようとするヴィッセル神戸の勢い。快晴のもと行われた天皇杯決勝は、スタジアムとファン、ピッチ、選手が一体となって始まった。
キャプテン・イニエスタの速い縦パスがベースとなり、時間を追うごとに神戸が攻守でリズムに乗る。18分には、昨夏、大分から移籍した藤本憲明が先制ゴールを奪う。後に鹿島DFに当たった「オウンゴール」で記録は修正されたが、GKが一度弾いたボールの先に詰めているのも、それが相手に当たってゴールとなったのも、悲願達成への意欲を証明するものだったのかもしれない。
38分には、右サイドからゴール前に入ったボールを鹿島DFがクリアミス。藤本はつま先を目いっぱい伸ばしてこれを押し込む。大分在籍時も入れると鹿島から3ゴールを奪ってきた「キラー」がまたも鹿島を突き放し、神戸は早くも前半で優位に立った。引退する元スペイン代表のビジャに、わずかな時間でも「花道」を用意するためにも、前半の2-0は理想的な展開だった。
かつてJ1に復帰を果たした14年、チームのスローガンを「ワンチーム、ワンファミリー、ワンドリーム」とし、選手、ファン、そして神戸も含めた一致団結を掲げた。ラグビーW杯で19年の流行語大賞を獲得した言葉は、実は神戸のほうが早く、そして長く(18年から同じ一致団結の後に、アジア№1クラブへ、と加えた)用いてきた実績がついに結実し、新しい国立競技場で初タイトルをつかんだ。
18年にバルセロナから加入した世界的なスーパースター・イニエスタ、17年に移籍したポドルスキ(ドイツ代表)、19年にビジャ、サンピエール、ブラジルのダンクレー、ベルギー代表のフェルマーレンと外国籍選手を獲得。日本代表でロシアW杯に出場した山口蛍、ドイツから帰国した酒井高徳、鹿島の西大伍と移籍組にはかつてキャプテンを務めた経験のある選手たちが揃う。「スターばかりではまとまれない」と批判された苦しいシーズン最後の最後に「ワンチーム」を体現して見せた。クラブだけではなく、選手だけでもなく、苦しい時代にも見守り続けた神戸という町も、もちろん「ワンチーム」の一員だ。
論座トークイベント「日本ラグビーの未来を語ろう」参加者募集中
ラグビーワールドカップ日本大会の興奮から2カ月が過ぎ、国内ラグビーは新しいシーズンに入っています。国内最高峰のトップリーグは2020年1月12日に開幕、さらに2月1日から始まるスーパーラグビーでは、日本を拠点とするサンウルブズが南半球の強豪クラブと競い合います。ワールドカップで高まったラグビー人気と関心を一過性のものにさせず、今後も日本代表の活躍を見続けるためには、何が必要なのか。私たちファンには何ができるのか。共に考えていきましょう。日本ラグビー協会理事で法学者の谷口真由美さん、元日本代表の小野澤宏時さん、朝日新聞論説委員(スポーツ界は)の西山良太郎記者が登壇します。
◆開催日時・場所
1月28日(火曜)19時~21時(18時30分開場)
朝日新聞東京本社 本館2階読者ホール(地下鉄大江戸線築地市場駅すぐ上)
◆定員・参加費
定員80人 参加費 1500円
◆申し込みや詳しい内容
Peatixの「論座」のページへ(ここをクリックしてください)
鹿島との対比でいえば、三木谷浩史社長の大胆な投資でIT企業をバックにのし上がってきた新しいクラブといったイメージがあるかもしれない。
しかし1995年1月、倉敷の川崎製鉄を前身として創設されたクラブを選手にたとえるなら、「苦労人」と呼んでもいい歴史をたどってきた。「神戸にサッカークラブを」と筆頭株主になったダイエーの企業カラーから「神戸オレンジサッカークラブ」が94年に設立され(後にクラブ名をヴィッセル神戸に改称)、倉敷市にあった川崎製鉄が神戸に95年1月移転した。練習初日の同年1月17日、阪神・淡路大震災でクラブは練習場を失い、約1カ月後、再び岡山に戻って練習を行った。
震災は地元経済界にも打撃を与え、ダイエーがスポンサーを降り、支援母体を持たないクラブの財政は危機的状況に直面する。2001年以降、三浦知良、望月重良、城彰二ら日本代表選手を獲得し、04年に楽天が営業権を持った。
自身も05年から神戸でプレーをし、
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