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元全共闘たちからの〝社会的遺言〟

25年ぶりに『続・全共闘白書』刊行

前田和男 翻訳家・ノンフィクション作家

120校以上の450人超から回答

 昨年5月、「“元全共闘”は半世紀を経ても悔い改めない!?」にて経過報告をした『続・全共闘白書』が年末に刊行された。

 かつて日大・東大闘争にはじまる学生たちの反乱「全共闘運動」が全国各地の学園で燃え盛った。それから25年後の1994年、それを中心的に担った「元全共闘」に対して、収入から年金・介護問題、政治・社会制度への問題提起など73項目に及ぶアンケートが実施され、『全共闘白書』(新潮社)として刊行され話題を呼んだが、今回はその続編である。

全共闘の学生が占拠中の東大・安田講堂=1969年1月18日

 設問は前回よりも多い75。最終締切りの8月末に寄せられた回答は、120超の大学・高校での全共闘・学園闘争体験者から450超。A5版720ページにも及ぶ歴史的レポートとなった。

 着目すべきは、前回に比べて〝思いのたけ〟が濃密に書き込まれていることである。おそらく、50年前、社会の諸制度に対する異議申し立ての運動を起こした全共闘運動経験者も、いまや「後期高齢者」を目前にして、これが〝社会的遺言〟になると自覚してのことだと思われる。

 主な設問は以下のとおりである。

・全共闘運動になぜ、どこでどのような形で参加したか/・あの時代に戻れたらもう一度参加するか/・あのとき革命を信じていたか/・運動から離れた理由/・運動参加はその後の人生の役に立っているか/・収入、資産状況。それで生活できているか/・年金はどれくらいもらっているか/・結婚離婚歴/・健康状態/・自身が要介護になったらどうするか/・認知症等で財産管理が不安になったらどうするか/
・延命治療は望むか/・最期をどこで迎えたいか、埋葬先は/・好きな文化言論人・政治家、嫌いな文化言論人・政治家は/・いま最も好きな国は/・いま最も嫌いな国は/・外国人労働者の受け入れは/・憲法、自衛隊、日の丸・君が代はどうすべきか/・支持政党/・民主党政権の評価/・〝平成天皇〟の評価/・トランプの評価/・東京五輪の評価/・どんなボランティアをしているか/・もう一度政治に関わりたいか/・次世代へのメッセージと遺言

老いてますます意気軒高!?

東大・安田講堂の攻防戦と前後し、全国各地の大学で「東大闘争支援」をかかげた闘争が展開された=1969年1月21日、京都大学

 今回の『続・全共闘白書』を25年前の『全共闘白書』と重ねあわせると、「元全共闘の実像」が立体的に浮かび上がってくる。75の設問と回答の中から、その例証をいくつかピックアップしてみよう。

問3 参加したことをどう思うか*複数回答
[誇りに思っている]310名(69.5%)
[若気の至りと反省]4名(0.9%)
[懐かしい]57名(12.8%)
[気にしていない]13名(2.9%)
[その他・記述なし]62名(13.9%)

★25年前の回答
[誇りに思っている]296名(56.3%)
[若気の至りと反省]19名(3.6%)
[懐かしい]83名(15.8%)
[気にしていない]37名(7.0%)
[その他・記述なし]138名(25.9%)
問4 あの時代に戻れたらまた参加するか
[また運動に参加する]299名(67.0%)
[しない]10名(2.2%)
[わからない]98名(22.0%)
[その他・記述なし]39名(8.7%)

★25年前の回答
[また運動に参加する]291名(55.3%)
[しない]25名(4.8%)
[わからない]113名(21.5%)
[その他・記述なし]97名(18.4%)

 25年前と比べて、「全共闘を誇りに思う」「あの時代に戻れたらまた参加する」がむしろ増えている。一般に人間は年とともに角が取れて丸くなるといわれるが、こと全共闘にはこの「世間の常識」は当てはまらないどころか真逆である。

出版記念会で老人全共闘が決起する!?

 では全共闘体験者の「今後」はどうか。彼らの大半は、世代的には堺屋太一の命名による「団塊世代」と重なっているが、果してその「傾向と志向」は同じかどうか、である。その答えは以下の二つの回答から浮かび上がってきそうだ。

問39 ボランティア活動
[熱心に取り組んでいる]157名(35.2%)
[ときどき参加する]127名(28.5%)
[やっていない]153名(34.3%)
[その他・記述なし]9名(2.0%)

★25年前の回答
[熱心に取り組んでいる]118名(22.4%)
[ときどき参加する]110名(20.9%)
[やっていない]272名(51.7%)
[その他・記述なし]26名(4.9%)
問69 政治社会運動参加意思
[ある]269名(60.3%)
[ない]123名(27.6%)
[その他・記述なし]54名(12.1%)

★25年前の回答
[ある]204名(38.8%)
[ない]181名(34.4%)
[その他・記述なし]141名(26.8%)

 厚労省は2025年に団塊世代が後期高齢者になることに危機意識をもち多岐にわたる調査をしているが、そのなかの「ボランティア活動」については「していない」が69.9%である。ところが全共闘世代は「ときどきやる」を入れると社会活動参加率が逆に7割超で、25年前の「現役時代」よりも増大している。政治参加意識も同様で、ここでも「老いてますます意気軒高」である。

 運動終息後長髪を切って就職し牙を抜かれたと揶揄されてきた全共闘世代だが、この統計数値からは、牙を密かに研いできたようだ。どうせ老い先は短いのだからと〝最後の反乱〟――老人全共闘運動が起きるかもしれない。

日大全共闘の学生らが、東京・両国の日大講堂で開いた、大学当局との「大衆団交」を開いた。写真中央右が当時の日大トップ、古田重二良会頭=1968年9月30日、東京・両国

興味深いアクティビストたちの「全共闘論」

 上記統計数値もさることながら、本書の圧巻は、最終設問75の「今だから話せること、伝え遺したいこと」への回答、すなわち元全共闘の〝遺言〟である。本書には、日大・東大闘争被告をはじめ獄中から重信房子氏、和光晴生氏、北朝鮮から「よど号」当事者も回答を寄せている。

フジテレビ「三時のあなた」で山口淑子さんのインタビューに答える重信房子氏。1973年8月14日に放映された

 なかでも、彼らによる「全共闘運動論」は興味ぶかい。全共闘運動からいち早くもっとも遠い地平へと飛翔していったアクティビストたちが、揃いもそろって全共闘を自戒をこめて評価しているのである。まずは元日本赤軍の重信房子氏である。

 「私は、視野が狭く『図に乗りすぎた闘い方』だったと、自分(たち)の闘いを振り返ります。私と違って、全共闘運動の経験から地域へ、

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