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ソーシャルワーカー養成から「生活保護」が消える

水面下の精神保健福祉士養成課程改革に隠されたシナリオ

みわよしこ フリーランスライター

 2020年4月から、精神保健福祉士の養成課程における教育内容が改定される見通しだ。改定の方向性は2019年6月に厚労省の検討会で決定されており、現在、同時に改定される社会福祉士養成課程とともに、省令案へのパブリックコメントが募集されている(しめきりはいずれも1月18日)。

 最大の懸念は、両資格の養成課程から科目「低所得者に対する支援と生活保護制度」が消滅することだ。影響を受ける可能性があるのは、低所得となりやすく生活保護を必要とすることの多い精神障害者だけではない。

実学重視?で廃止される科目

拡大厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館=東京都千代田区

 精神保健福祉士の養成カリキュラムは、精神保健福祉士法に関する省令や施行規則で定められる。現在、改定を控えてパブリックコメントが募集されているのは、「精神保健福祉士法施行規則等の一部を改正する省令(案)」

 現行課程の科目から「低所得者に対する支援と生活保護」「福祉行財政と福祉計画」が廃止されるほか、医学・精神医学・精神保健福祉の理論に関する科目が減少し、実践にかかわる科目が増加する。大学教育での「実学重視」を思わせる本省令は、2020年2月に公布され、2020年度以後の精神保健福祉士養成に反映される予定である。

 しかし、精神保健福祉士資格を取得するために大学や専門学校で学びはじめる人々の多くは、低所得者が利用できる公的制度について深い知識を持っているわけではない。また、公的福祉に関わる行政や財政についても、ほぼ「素人」であるはずだ。重要な制度や行政の仕組みについて、学校で十分に学べなかった精神保健福祉士に、メンタルヘルスの問題と関連した複雑なソーシャルワークを委ねられるだろうか? 筆者は正直なところ、不安を覚える(具体的な科目変更案は、4ページ表2)。

生活保護の重要性を厚労省は強調するけれど

 この改定を管掌するのは、厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部 精神・障害保健課だ。筆者の不安を率直にぶつけてみたところ、「科目として、表面上なくなるのは事実ですが、低所得者に対する支援と生活保護制度については今後もしっかりと学んでいただくというのが、われわれの認識です」という回答であった。

 制度としての公的扶助や生活保護制度については、現行の科目「社会保障」で引き続き学ぶ。また、精神障害者が抱えやすい生活困窮・貧困、そして制度上の課題については、新設される科目「精神保健福祉制度論」で学ぶという。「メンタルヘルスを切り口に、いろいろなことを考えていただきたい」という意識で科目を見直し、社会福祉士養成課程との重複も減らしたという。

 このため、現行の科目「福祉行財政と福祉計画」は廃止されることになったということだ。しかし、この科目は社会福祉士養成課程からも廃止されるのである。公的資格を取得してソーシャルワーカーとして公認される人々は、行政や財政について、どこで「しっかり」学べるというのだろうか(社会福祉士養成課程は介護福祉士とともに改定される。そちらのパブコメ募集はこちら)。

 なお、社会福祉士養成課程には、科目「貧困に対する支援」が新設される予定である。しかし、現行の「低所得者に対する支援と生活保護」という科目名の具体性、一個人としての「低所得者」に対する「生活保護」という制度名の〝生々しさ〟が削ぎ落とされてしまうことは確かだ。

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筆者

みわよしこ

みわよしこ(みわ・よしこ) フリーランスライター

1963年福岡市生まれ。大学院修士課程(物理)修了後、半導体シミュレーションの企業内研究者を経て、2000年に著述業へ転身。ドキュメントエンジニアリング・広告・取材記事などを幅広くこなしてきた。高校3年で「理転」するまでは音楽系。機器設計への関心から美術短大デザイン科を卒業した経歴も持つ。 現在は、もともとのバックグラウンドである科学・技術に加え、ジェンダー・貧困・福祉・社会保障・公共政策・教育などに幅広く関心を向けて執筆活動を行いつつ、大学院博士課程で社会保障政策決定の政治を研究。時に、科学コミュニケーションイベントの企画・実施も行う。 主な著書は『生活保護リアル』(日本評論社、2013年)。共著に『いちばんやさしいアルゴリズムの本』(技術評論社、2013年)、『おしゃべりなコンピュータ 音声合成技術の現在と未来』(丸善出版、2015年)など。調査報道記者編集者協会(IRE)・日本科学技術ジャーナリスト会議などに所属。 電動車椅子を利用する中途障害者。無類の愛猫家でもある。

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